ギャハギャハと豪快に笑いながら、健吾はボールを追い掛けた。


もう、2人ともどろどろだった。


上からは雨をかぶり、下からはぬかるんだ土が容赦なく飛び跳ねてきて、でも、おれたちは投げ続けて、捕り続けた。


小さな子供がどろんこ遊びに夢中になるように、高校生がどろだらけになって、野球に夢中になった。


しばらく投げ続けたあと、健吾がおれの闘志に火をつける。


「次、ラストな! スクリューボール」


と言い、健吾は続けた。


「一回から八回まで、0対0。同点。九回裏。ツーアウト満塁、スリーボール」


「絶体絶命の大ピンチってやつか」


「そうだ」


顔に貼り付く春雨を拭いながらおれが笑うと、健吾はさらにおれの野球魂を揺さぶる発言をした。


「しかも、突然のどしゃ降り。バッターは、修司。ノースリーがら、後はない。次がボールなら、押し出しサヨナラだ」


来い、と健吾はミットを構え、おれは、そこに桜花のユニフォームを着た修司の面影を描いた。


縦縞のユニフォーム、すげえ似合ってるじゃねえか。


修司。


勝負しようぜ。


雨がさっきよりも激しくなっていた。


コンディションは最悪。


握り締めるボールが滑る。


足元はぬかるんで、思ったようには踏ん張りが効かない。


最悪な状況だ。


健吾のミットを睨み付け、おれは腕を降り下ろした。


「あっ」