ケーキが潰れてしまったら、きっと。


いや、確実だ。


おれは、翠に、ぶっ殺されるだろう。


雨に濡れた大通りから、雨で滲んだ裏路地に入ると、もうじき花開きそうな紫陽花を見付けた。


「風情だねえ」


紫陽花があるその家は小さな新築で、2階建てだった。


玄関先に、新品の三輪車が2台並んでいる。


西洋の雰囲気が漂っていて、おれは真っ先に翠を想った。


翠に似合いそうな家だ。


将来、翠と結婚したら、こんな家を建てたいと思う。


大きな豪邸じゃなくていい。


小さくて、狭い家がいい。


翠がいつも近くに居るように、わざと小さい家を建てる。


子供は2人くらいで、一番目は女の子がいい。


翠みたいな、可愛い女の子がいいな。


きっと、まだまだ先の事なんだろうけれど、おれは能天気にそんな事ばかりを想った。


「気がはえーっつうの。バカか、おれは」


まだ、甲子園にも連れてってやれてないっていうのに。


その時、大通りの方で救急車のサイレンが鳴っている事に気付き、おれは急に不安になった。


でも、大丈夫だ。


翠は、もう、あの日みたいに救急車で運ばれるような事はないだろうから。


今は元気になったし、もう、大丈夫だ。