母さんの好きな、黄色のチューリップだ。


レースのカーテンが引かれている窓は5センチほど開いていて、春雨がさらさらと降る音が、リビングいっぱいに迷い込んでくる。


「ラーメンも、イタリアンも、却下! あたし、ハムエッグが食いたい」


と翠が言い出すと、父さんと母さんはお互いに見つめ合ったあと、同時に吹き出した。


「ハムエッグ? そんなものでいいの?」


「変わった子だなあ」


「ちょっと、貴司! 変わった子って、どういう意味?」


おれはソファーの背もたれにうずくまって、クスクス笑った。


せっかく、大好きなラーメンやイタリアンにありつけるかもしれないのに、いつでも食べれるようなハムエッグなんかが食いたいなんて。


翠は、やっぱりへんな女だ。


でも、翠がハムエッグにしたのには、きっと理由があったのだ。


翠は、外出を避けたかったのだろう。


その事に気が付いたのは、もう少し後の事だ。


しばらく笑い続けていると、翠が、まるでおれを邪魔者のように扱った。


「あれ? 補欠、あんた何で居るの?」


「え?」


「早く練習に行けば?」


しれっとした表情で、しらけたフランス人形は笑う。


「今日は雨だし、監督も出張。練習は休みだって言っただろ。そもそも、翠が遊びに来たいって」


早口でおれが言うと、


「ああ、そう言えば、そうだった気もする」


と翠は笑った。