おそらく、今も、顔を真っ赤にして照れ笑いしているに違いない。


おれの父さんは、翠を自分の娘のように思っているらしい。


こうして、翠が遊びに来る日は、家から出ようとしない。


自動車販売店の支店長をしている真面目一筋の父さんの、唯一の趣味はパチンコだ。


休日は、ほとんどパチンコ屋に入り浸る。


でも、翠が来るとなると、外出を極めて避ける傾向がある。


根っからのアウトドア派の父さんが、だ。


それくらい、父さんは翠に夢中だ。


「翠ちゃん、お昼はなに食べたい?」


おれの父さんは、翠に熱中症だ。


まだ、朝8時すぎなのに、もう翠の昼飯の心配をしている。


「貴司がおごってくれるの?」


「当たり前じゃないか。翠ちゃんの好きなもの食べよう」


賑やかに盛り上がっているリビングに入って行くと、おれが来客なんじゃないかと思ってしまうほど、3人は会話に夢中になっていた。


「あー、まだ眠い」


おれは大きなあくびをして、リビングのソファーにだらしなく雪崩れ込み、その様子を伺った。


「ラーメンは? 翠ちゃん、ラーメン好きだろ?」


せっかく、翠ちゃんと食べれるんだし、と父さんは言い、母さんはイタリアンにしようよと言った。


8畳半のリビングに、対面式のキッチン。


42型の薄型ワイドテレビ。


白い、L字型のソファー。


4人掛けのダイニングテーブルの上には、チューリップが生けられている。