母さんは、昔から、こういう翠みたいな一風変わってる女が好きだ。


へんにかしこまっていたり、自分を良く見せようとしてボロを出す女の子より、よっぽど可愛い。


と、母さんは、翠をたいそう気に入っている。


「響也。いい子つかまえたわね。さすが、私の息子だわ」


なんて、楽しそうに笑う。


「お。今日は翠ちゃんが来てるのか」


「父さん」


キャアキャア、とリビングから笑い声が響いてくる。


韓国ドラマを観ながら、この俳優がカッコいい、とか、この女優が綺麗だ、とか。


評論家になって騒いでいる2人の元へスキップしながら向かったのは、おれの父さん。


「父さんも仲間に入れてもらおう」


何だか無性に可笑しくて、おれは翠が脱ぎ捨てた赤いパンプスを揃えながら、小さく笑い続けた。


リビングの方からは、期待通りの翠の声が届いた。


「翠ちゃん」


「チャオー! 貴司! 遊びに来たよ」


「よく来たね。紅茶、飲むかい? コーヒーがいいかな」


「あたしはコーラが好きだって、この前も教えたじゃんか! 貴司も歳かねえ」


「いやあ、歳だなあ」


ついに、おれは玄関で1人ケタケタと笑ってしまった。


夏井家の大黒柱で、46歳の夏井貴司(なつい たかし)でさえ、翠にはたじたじである。


正確に言えば、メロメロだ。