「今のだ、今のやつ」


「え?」


「それが、スクリューだ」


おれは、相澤先輩に掴まれた手のひらをじっと見つめながら、額を流れ落ちる汗の感触に酔いしれた。


「何か……分かったかもしれないっす」


「もう一度、同じように投げてみろ。岩渕、もう一球、行くぞ」


「よし! 来い! 響也」


もう一度投げてみると、カーブやシュートとはまた違った一球が、健吾のミットに食い込んだ。


「それだ! 夏井、それだよ!」


憧れてやまない相澤先輩に、ほんの少しだけ近付けたような気がした。


抱き合うおれと健吾の横で、フェンスを握り締めながら、翠が笑っていた。


フェンスをガシャガシャ揺らし、うさぎのようにぴょんぴょん飛び跳ねている。


「補欠、やればできるじゃない! 早く甲子園に連れてけ! バッカヤロー」


「うっせえ! んなこた、分かってらあ」


校門を真っ直ぐに見つめると、八重桜の並木トンネルがあって、淡いピンク色の蕾をつけていた。


「うわ……すげえ。季節外れだぜ」


陽気な春の空なのに、季節外れのなごり雪がおれたちを包み込んでいた。