「夏井、岩渕。どうした?」


おれも健吾も、何も答える事ができなかった。


うん、とも、すん、とも言えずにいるおれたちに、監督は続けた。


「今のがスクリューだ。スクリューボール」


スクリューボール。


サウスポー特有のシュートボールだ、と監督は得意気に説明を始めた。


手首を外側に捻り投げる事で回転を加え、曲がったり、落ちたりするスピード変化球だ、と。


「夏井、いいな?」


と監督は腕を組んだ。


「え?」


「夏までに、このスクリューを覚えろ。今日から2週間は、相澤が指導しに来てくれる事になってる。その間に盗め」


いいな、ともう一度言い、おれの返事をきく前に監督はブルペンを立ち去った。


おれと健吾の、最後の挑戦が始まった。


夏までに、スクリューボールを自分たちのものにすること。


「違う! それじゃあ、ただのカーブだ。回転がぜんぜん足りない」


「おす」


相澤先輩はおれの真横に付きっきりで、自分の持つ全てを夏井の左腕に受け渡す、そう言って熱心に指導に当たってくれた。


3日経っても、1週間経過しても、スクリューボールには一歩も近付けず、おれはかなり悪戦苦闘していた。


馴れない変化球に、左腕がどうにもついて来てくれない。


淡々とした葛藤の日々で、おれの左腕の感覚に変化が現れたのは、スクリューボールを習い始めて10日経った日の事だった。


「来た! 夏井!」

相澤先輩が厳しい表情を一変させ、笑顔でおれの左手を掴んだ。