マウンドで大きく振りかぶる相澤先輩を見ていると、胸が騒ぎ始める。


やっぱり、あの整ったフォームは、現役の頃から何も変わっていなかった。


左腕を日本刀のように勇ましく降り下ろし、相澤先輩はグッと歯を食い縛った。


「うわっ」


見逃した、と焦った。


でも、それは見逃したわけじゃなくて、おれは相澤先輩が投じたその変化球に羽交い締めにあっていた。


足がすくんだ。


ビュウッ、と突風のような音が目の前を通過した時、向こうで花菜が吹いた甲高い音が短命に響いた。


ピイッ、と蝉の一生くらい短命なホイッスルの音が。


見逃し、三振。


バッター、アウト!


そう、言われたような気がした。


「何だ、これ……魔球もいいとこだぜ。すっげえや」


健吾は受けたままの体勢を微動だにしないまま、唖然とした面持ちで呟いた。


「すっげえ」


おれだって、健吾と同じ気持ちだった。


相澤先輩が投じた一球は、おれと健吾を凍りつかせた。


右へ曲がったと思えば、それは単なる見せかけで。


左へ曲がったのかと思いきや、今度は竜巻のようにキュルキュルと激しくうねり、最後はホームベースの手前で急激に下降した。


もの凄いスピードで向かって来たくせに、ホームベース手前で忽然と消えるように、その球はがくりと落ちたのだ。


固まるおれと健吾に、監督がニタリと笑った。