翠が元気に笑っていてくれるなら。


地球が破滅しようが、沈没しようが、爆発しようが、おれは素直に受け入れてやる。


「夏井! 岩渕!」


3人で笑いながら近況について語り合っていると、むっつりとした不機嫌面で歩いて来たのは、鬼監督だった。


「何を笑っとるんだ! お前らに笑ってる暇はない」


今日の監督は、ひと味違う雰囲気をみなぎらせていた。


虎視眈々とした、厳しい表情にひときわ拍車がかかって見える。


監督は相澤先輩をブルペンのマウンドに立つように指示し、バッターボックスにはおれが立つことになった。


不意打ちに声を掛けられ、少し焦った。


「夏井」


「はい」


「バッターボックスに立って、今から相澤が投げる一球を見ろ。絶対に、目を離すんじゃないぞ」


健吾はプロテクターを装着し、マウンドに向かってミットを構えた。


おれは左打席にただ突っ立って、マウンドに立つ相澤先輩の左手ばかりを見つめた。


「それじゃあ、相澤。すまないが、一球、投げてくれ」


監督はバッターボックスの横で、腕組みをしながら鬼のような面持ちで言った。


「夏井、しっかり見なさい」


はい、とおれと相澤先輩はほぼ同時に返事をし、行動に移った。


やっぱり、かっけえ。