「響也」


「ん?」


「良かったな。翠が元気になって」


そう言って、健吾はブルペンのホームベースから、緩やかな弧を描かせてボールを投げてきた。


「おっと」


そのボールをグローブで捕らえ、おれはだらしなくニタニタと笑った。


「ああ、もう最高」


また、翠とこうして同じ校舎に居られる事が、翠がフェンス越しで笑っている事が、おれは嬉しくてたまらなかった。


鼻の下を伸ばしてニタニタし続けるおれに、健吾は呆れたと言わんばかりに投球を要求してきた。


「こら、響也! だらしねえ顔しやがって。来い! まずはカーブだ」


「おーし。そのミットに、穴あけてやるぜ」


と投球体勢に入った時、思わぬ最高の来客に、おれと健吾は飛び付いた。


「夏井、岩渕。久しぶり。頑張ってるか?」


「うわあー! 相澤先輩」


と健吾は面を外し土の上に投げ出して、相澤先輩の元へ駆け出した。


「相澤先輩!」


無論、おれもじっとしてはいられなかった。


「何で? 東京、満喫してるんじゃなかったんすか?」


相澤先輩は左の口角を少し上げて、クッと笑った。