健吾はおれの事をよく分かってる。

ブルペンのフェンス横で、秋の西風に秋桜が悲しみに揺れていた。

誰も居なくなったグラウンドの片隅で、おれは声を殺して泣き続けた。

別に泣きたいわけじゃないのに。

悔しくて、勝手に涙が溢れた。

どうにも止まってはくれなかった。

相澤先輩が甲子園に散ったあの夏も、本間先輩が甲子園予選で涙を飲んだ夏も。

こんなふうに泣いたけど、今回ばかりはそんなものでは済まなかった。

いざ、実際にマウンドに立ち尽くし、負けたと実感しながらボールがバックスタンドに運ばれて行く様を見てみて、本当の悔し涙に出会った。

とにかくぐちゃぐちゃに何もかもを巻き込んで、濁りまくった色をしていた。

涙が引け始めた時はもうかなり薄暗くなっていて、一番星が空の高い位置に輝いていた。

風もつめたさばかりを増していた。

翠を春の甲子園に連れて行く事ができなくなってしまった。

朝、1勝を持ち帰ると約束したのに。

意図も簡単に、あっさり破ってしまった。

翠はどんな顔をするだろう。

馬鹿にして、笑い飛ばしてくれるだろうか。

いつものように。

いや、もしかしたら、泣いてしまうかもしれない。

怒られてしまうかもしれない。

口をきいて貰えないかもしれない。

その時、誰も居なくなったと思っていたのに、不意に背後から声をかけられ、おれは振り向いた。

「夏井先輩。帰りましょう」

朱色と群青色が交差し溶け合う空をバックに、勇気が立っていた。

「勇気。何やってんだ? まだ残ってたのか」

「うす。夏井先輩を待ってました」

勇気は言い、泥だらけのユニフォーム姿で突っ立っていた。

その頬には指先でなぞられたような土色の跡が、べったりと付着していた。

「先に帰っていいよ、勇気。今日はごめんな。あんな打球、さすがにお前でも捕れねえよな……」

なぜ再び込み上げてきたのかは、分からない。

勇気の頬に付着した土を見ていると、こいつが必死に走ったあの姿を思い出してしまって、申し訳なくてやるせなかった。

また背中を丸めて声を押し殺したおれに、勇気が言った。