この9回裏を必ず守り抜いてやると心に誓い、おれはマウンドに立った。

「夏井先輩」

守備位置へ向かう勇気がおれの左肩を濃い朱色のグローブで叩いて、加速しながら駆けて行った。

「ここ、踏ん張りましょう。おれ、死ぬ気で守る」

いつの間に、勇気はこんなにも成長していたのだろう。

背走する勇気の背中に、おれは修司の背中を重ねて見た。

勇気。

修司を超えてやろうぜ。

「この回、しっかり守るぞ!」

ホームからグラウンドに響き渡るように、健吾が大声を出した。

ナインがそれに答える。

商売道具のグローブで、秋の渇いた大空を仰いだ。

東ヶ丘打線、打者は3番から始まった。

初球は人差指と中指との間にボールを挟んで投げた。

フォークボール。

回転がほとんどなく、打者の手元で鋭く落ちた。

健吾が小さくガッツポーズを決めて、すぐさまおれに返球してくる。

直球。

でも、力を抜いてスローボールにして投じた。

チェンジアップ。

打者はタイミングをずらしてしまったのか、こちらの思惑通りに見逃し、ストライク。

最後はシュートボールで勝負した。

打たれてしまったものの、その鋭い打球にイガが飛び付きダイビングキャッチ。

ファーストに素早く送球し、ワンアウト。

4番打者。

スライダーをショートに転がされ、でも岸野が華麗にさばき、ツーアウト。

いける。

これでアウトは2つ捕った。

あと1つだ。

そして、バッターボックスに立った打者を見て、おれは修司のメール文の一部分を頭に描いた。





本当の4番は5番打者だ





「タイム!」

主審が叫んだ。

マウンドで躊躇しているおれに、健吾が駆け寄ってきて面を外した。

「響也。バッグスタンドに向かって風が吹いてるな」

「ああ、どうする? ツーアウトだ。敬遠するか、勝負に出るか」

おれが相談を持ちかけるとさすがの健吾も不安になったのか、ベンチに座っている鬼監督を見つめた。

監督はこの正念場だというのに、顔色一つ変えずに冷静な面持ちで座っている。