5番打者に投じたおれのスライダーはまだまだ未完成で、完全に負けてしまった。

見事な完敗だ。

その、大きく弧を描いた打球はおれの上空を真っ直ぐに流れ、夢中で背走する中堅手の頭上を越えた。

1塁3塁で構えていたランナーは強くベースを蹴り、次々にホームベースに駆け込んだ。

5番打者は右手でガッツポーズしながら、ゆっくりとホームベースを踏んだ。

しかも、両足で。

場内がどっとわいた。

スリーランホームラン。

おれの勝負球が、バックスタンドに儚く砕け散った。

「オッケー! さっばりしたところで、さくっとアウトカウント増やしますか」

一気に3点も先制されたこのピンチの時に、健吾は面を外して余裕綽々にナインに叫んだ。

満面の笑顔で。

5回表。

ついに流れが南高校にも来た。

2番打者、3番打者、共にフォアボールで出塁し、ノーアウト、ランナー2塁3塁。

こんな大チャンス、滅多に巡って来ない。

「おっしゃ! バズーカぶちかまして来るあ」

盛り上がるベンチを神々しく飛び出して行ったのは健吾で、有言実行してくれたのだった。

キィン、と甲高い打音と共に健吾の打球は、東ヶ丘の左翼手の頭上を越えてレフト側のスタンドに放り込まれた。

健吾はこういう男だ。

昔から負けず嫌いは天下一品で、やられたらやり返す主義の、頼りになる親友だ。

小学4年に出逢って以来、ずっとだ。

六回表、裏。

3対3のまま、トントン拍子に試合は運ばれた。

逆転の1点が欲しい。

追加点をとりに行くのがこれほど難しい事だったとは。

おれは高校野球の奥深さを思い知らされた。

七回、八回、表裏。

両者追加点の無いまま、火花が途切れる事は無かった。

3対3、変わらず。

9回表。

最終回の攻撃。

南高校はまたしても無得点に抑えられた。

「もーっ!」

監督の横でスコアブックをつけていた花菜が、机を叩いてやきもきしている。

こうなったからには、延長戦にもつれ込んで勝つまで粘ってやる。

「花菜、おれ、絶対抑えるから」

「頼むよ、響也、健吾」

「おし」