金色の絹糸が窓から入って来る風になびくたびに、翠の耳元で華奢なシルバーピアスが光って、細かくプリズムしていた。

それがやけに眩しくて、おれはとっさに目を細めた。

人間を見て、眩しい、と思ったのはこの時が初めてだった。

ごくり、と固く緊張した息を呑み込んでから、やっとの思いでおれは言った。

やけに、緊張した。

「そこ、おれの席なんだけど」

カツコツ、と黒板の真上の壁時計が静かに正確に、時を刻んでいた。

7時8分。

秒針がツクツクと世話しなく動き続ける。

翠しか居ないすかすかの教室には、全開の窓から入って来る新鮮な空気と、粉っぽいチョークの匂いが立ち込めていた。

「え! 嘘! 何で?」

翠は大きな目をさらに大きく丸くして、教室の入り口に立ち尽くすおれを見つめていた。

「何でって……てか、吉田さんの席はもうひとつ後ろでしょ」

「あ、ごっめーん! 悪い、悪い」

翠と口をきいたのは、この時が初めてだ。

何がそんなに面白可笑しいのだろうか。

「すまん、すまん」

そう言って、翠はケタケタと笑いを溢した。

美しい目鼻立ちを高級和紙のようにくしゃくしゃにして。

その整った顔立ちからは、どんなに頭を捻っても想像が付かない男勝りな翠の口調に、おれは笑ってしまった。

似合わな過ぎる。

「何笑ってんだよ! ちょっと席かりただけじゃん。別に間違えたわけじゃないからな」

と言い、細いフェイスラインをぷっくりと膨らませて、もうひとつ後ろの席に翠は移動した。

窓際後ろから二番目に。

そこ、が彼女の本当の席だ。

ストラップやらマスコット人形やら、じゃらじゃらとうるさい携帯電話をいじる翠の爪は長く、ちょうどこの教室の窓から見える桜と同じ色をしていた。

淡い淡い、ピンク色。

単純に、きれいだ、とおれは思った。

「ちょっと! いつまで笑ってんのよ! ぶっ殺すよ?」

「なっ……朝から狂暴だな。別に、笑ってねえよ」

と言い、でも、笑いを堪えながら、俺は黒いエナメル質のスポーツバッグを肩から下ろした。