他の人が見たら不思議かもしれないが、こういう飾りっ気のない性格もおれは好きだ。

「ったりめえだ! 補欠が怒らせるからあたしの貴重な朝飯が減ったじゃん! ただでさえ間食禁止なのに」

「いや、口に物入れながら怒鳴る方もどうかと思うけど」

「返せー! あたしの人参返せ! 末代先までぶっ殺してやる!」

とか何とか言いながらも、翠は食べる事が大好きなのだ。

残り少ない朝飯に夢中だ。

質素な朝飯をぺろりとたいらげ、翠はどこかのおやじのように腹をバコバコ叩いた。

「ういー。食ったあ、食ったあ。補欠、これ、おぼんごと返してきて」

病院食は不味くてかなわん、と言い、翠は満腹の腹をさすった。

「ほら、返してきて」

「はいはい」

廊下に出ていた食事を運んでくるカートに空の食器を返し、病室に戻るとまた笑う羽目になった。

翠は爪楊枝で歯の間をカキカキして、シーシーと音を立てていた。

これで小道具に朝刊を持たせたら、おっさんだ。

その光景を見ながらクックッと笑いを必死に堪えていると、不意打ちに翠が言った。

「あたし、手術の日決まったから」

「え……まじ? いつ?」

ややあって、翠は壁に掛かっていたカレンダーを見つめながら言った。

「来週の土曜日」

翠が見つめているカレンダーのとある日には、赤いインクで丸が付いていた。

9月15日

春の選抜予選開幕、とも書かれてある。

翠の筆跡だ。

おれは言葉を失った。

「残念。補欠の初陣とかぶっちゃった」

ドラマチックー、なんて翠は言い、でも、とてつもない不安と闘っているのだと分かった。

いつもの気の強い翠は、そこには居なかった。

元気な翠だけど、でも、空元気な翠だ。

「まじかよ」

おれは戸惑いを隠しきれなかった。

「まじだ! まあ、しょうがないさ」

「しょうがないって……」

「あたし、ファイト! 補欠はど根性で勝て」

ど根性どころじゃない。

手術の日は学校を休んで、翠の側に居ようと思っていたのだから。