同じ一年生の部員達よりも背は低い方だったし、どちからと言われればおれは華奢な体つきをしていた。

健吾と並ぶとなおさらそう見えたと思う。

だから、この身なりなからは誰がどう見ても、投手だとは想像もつかなかっただろう。

急勾配を登った桜並木の終わりに南高校の正門はあって、それを潜ると右手に野球部の練習グラウンドがある。

海が近い事もあって、緑色に張り巡らされたフェンスが少し錆び付いていた。


入学して2週間が経ったばかりの、ある日の事だ。

艶やかな桜吹雪に見舞われた朝のグラウンドで軽く朝練習をした後、まだもう少し練習をすると言う健吾を置いて、おれは一人で教室へ向かった。

朝5時に起床し、6時から素振りをしたおれは疲れていた。

朝が弱いのだ。

しかし、何とも言えない爽快な疲れ具合が体を支配していた。

とても、いい気分だった。

まだ朝の7時を過ぎたばかりで、校舎の中はひんやりしていて、人の気配すら感じられなかった。

それもまた、いい気分だった。

空かすかの校舎は優越感に浸れる。

まだ、教室には誰も居ないだろう。

きっと、おれが第1号だ。

そう予測をしてわくわくしながら、階段を1段飛ばしで駆け上がった。

でも、いざ教室に入ろうとすると、すでに先客に先を越されていたのだった。

その先客が、彼女だった。

窓際後ろから三番目の席に1人ちょこんと座っていて、片肘をついて窓の外の景色に瞳を輝かせているのだった。

窓は完全に開け放たれていた。

カラーコンタクトレンズをしているためか、ヘーゼルナッツ色の淡いミステリアスな目が、おれを硬直させた。

一瞬、外国人じゃないかと思ってしまったほど、異国情緒漂う目の色をしていた。

彼女の背後には銀色の窓枠があって、その光景は青空をバックにした1枚の写真葉書のようだった。

単純に、清らかだ、とおれは思った。

朝のつめたい春風に、銀色に黒いメッシュの長い髪の毛をさらさらと流しながら、その席に吉田翠は座っていた。