その時、あの年輩の救急隊員が戻ってきて、出入口で叫んだ。
「どなたか同行願います! どちらの病院に向かいますか」
「南台大学病院に行って下さい! 彼女はそこに通院しているんです」
答えたのは蓮で、その声は意外に意外を重ねた、冷静沈着過ぎるものだった。
「私、行きます」
翠の担任は言い、駆け出しながら振り向いた。
「戸田先生、吉田の母親の会社に連絡入れてもらえますか」
私のデスクにクラス名簿がありますから、と翠の担任は言い、また駆け出した。
赤い色が嫌いになった。
赤い色と、あの音が怖くなった。
夏の湿気と熱気をたっぷり含んだ、五月雨のような霧雨に赤く滲む色が、特に。
おれと健吾と蓮。
結衣と明里、それから、騒ぎの詳細を聞き付けて駆け付けた花菜。
おれ達は体育館から校舎へ繋がる2階の渡り廊下の窓辺に並んで、外を見つめていた。
誰も、口を開こうとしなかった。
結衣と明里と花菜はぴったり寄り添うように泣いていて、今、校庭を濡らしている細くて柔らかい雨が涙雨のように見えた。
赤く滲んだ色が校舎をランダムに照らしながら、校門を出て行った。
強烈で不気味なサイレンと共に。
おれの大切なフランス人形を、拐って行ってしまった。
「何で」
1番最初に声を出したのは、明里だった。
目を真っ赤に充血させて、涙をこぼしている。
「始業式はじまるまで、あんなに元気だったのに」
と結衣が言い泣くと、花菜と明里が結衣を抱き締めて泣いた。
「夏井くん、知らなかった? 夏休み前から歩行時に、翠がふらつくようになったこと」
蓮が訊き、涙雨に濡れた校庭に深い溜息を落とした。
「知らなかった。何も」
毎朝、一緒に登校していたのに。
毎日、一緒に弁当を食っていたのに。
「これは個人情報になるから、本当は言っちゃいけないんだろうけど。翠にとって、夏井くんは特別だから言うよ」
と蓮が言った。
「何?」
「どなたか同行願います! どちらの病院に向かいますか」
「南台大学病院に行って下さい! 彼女はそこに通院しているんです」
答えたのは蓮で、その声は意外に意外を重ねた、冷静沈着過ぎるものだった。
「私、行きます」
翠の担任は言い、駆け出しながら振り向いた。
「戸田先生、吉田の母親の会社に連絡入れてもらえますか」
私のデスクにクラス名簿がありますから、と翠の担任は言い、また駆け出した。
赤い色が嫌いになった。
赤い色と、あの音が怖くなった。
夏の湿気と熱気をたっぷり含んだ、五月雨のような霧雨に赤く滲む色が、特に。
おれと健吾と蓮。
結衣と明里、それから、騒ぎの詳細を聞き付けて駆け付けた花菜。
おれ達は体育館から校舎へ繋がる2階の渡り廊下の窓辺に並んで、外を見つめていた。
誰も、口を開こうとしなかった。
結衣と明里と花菜はぴったり寄り添うように泣いていて、今、校庭を濡らしている細くて柔らかい雨が涙雨のように見えた。
赤く滲んだ色が校舎をランダムに照らしながら、校門を出て行った。
強烈で不気味なサイレンと共に。
おれの大切なフランス人形を、拐って行ってしまった。
「何で」
1番最初に声を出したのは、明里だった。
目を真っ赤に充血させて、涙をこぼしている。
「始業式はじまるまで、あんなに元気だったのに」
と結衣が言い泣くと、花菜と明里が結衣を抱き締めて泣いた。
「夏井くん、知らなかった? 夏休み前から歩行時に、翠がふらつくようになったこと」
蓮が訊き、涙雨に濡れた校庭に深い溜息を落とした。
「知らなかった。何も」
毎朝、一緒に登校していたのに。
毎日、一緒に弁当を食っていたのに。
「これは個人情報になるから、本当は言っちゃいけないんだろうけど。翠にとって、夏井くんは特別だから言うよ」
と蓮が言った。
「何?」