体育館中を硬直させたのは、ダアーン、という凄まじい音だった。

床を叩きつけるような、大きな音。

まるで、床の上に天井から巨大な隕石でも落としたかのような。

床が一部抜け落ちたんじゃないか、とおれは思った。

シン、と静まり返った直後、女の悲鳴が体育館いっぱいに木霊した。

おれの足がガクガクし始めていた。

「ギャアアアー! 翠ー!」

その声が、翠の親友、結衣の声だったからこそ。

ざわめく体育館の中、おれは人混みを掻き分けて走り出していた。

「どいて! ごめん、通して」

「響也?」

イガがおれの左腕を掴んだ。

ひどく、怯えたような顔をしておれを見ていた。

「響也、顔色悪いぞ」

「ああ、大丈夫だから。翠に何かあったみたいだから、さきに教室戻ってて」

そう言って、おれはイガの手を振り払った。

「悪い、通して」

話した事もない男や女をぐいぐい両手で掻き分けて進み、おれは足をすくませた。

「どうなってんだ」

目の前には、翠が居た。

左半身を下にして、体育座りを崩したような格好で、床に倒れていた。

「先生! 翠が倒れた! 先生、先生えー!」

結衣は目を血走らせ、人だかりの中、必死に担任を探し続けていた。

翠は汗だくで、朝会った時よりも真っ白な顔色をしていた。

まるで、熱気の中眠る白雪姫のように。

立ち尽くすおれに一目散に駆け寄って来たのは健吾で、固まるおれとは対照的に慌てふためいていた。

倒れた白雪姫を取り囲むようにして人だかりが膨らんで行く中、翠に駆け寄ってきたのは蓮だった。

おれの体がいうことをきかなくなって、気付いた時には蓮に飛び掛かっていた。

「触るな! 翠に触るな! おれが保健室に運ぶ」

とおれは怒鳴り散らした。

そして、蓮のワイシャツを力ずくで引っ張り、そのまま後ろに突き飛ばした。

「夏井くん! ちょっと待って! おれの話、聞いてくれ」

「後にしてくれ」

重力だらけの翠の体をそっと抱き上げようとした時、今度は蓮がおれに飛びかかった。

「触るな! 動かしちゃだめだ」