天井高く高々と掲げられた校章の横には、校歌の歌詞が綴られた板が取り付けられている。

「暑っち」

と呟きながら首回りに手を当てると、不快な汗が滲んでいた。

立っているだけでもこうして汗ばむという状況なのに、全校生徒が密集すると変な苛立ちさえ込み上げる。

体育館を埋め尽くす生徒達の左横には、先生方が横一列にスーツ姿で並んでいる。

ますます暑苦しい。

「響也、響也」

肩を叩かれて振り向くと、おれの真後ろに居たイガがニタニタしながら右横を指差した。

右横を見て、おれも笑った。

「何やってんだ、あいつ」

「翠ちゃんてさ、いつも元気だよな。明るいし、可愛いし。髪の毛キンキラ金髪だし、太陽みたいだな」

とイガに言われ、おれは顔をほころばせた。

翠は前に立っている結衣にちょっかいを出して、赤毛頭に何度も何度もチョップをしてげらげら笑っていた。

それを見て笑うおれとイガの視線に気付いたのか、数メートル離れた人混みの中、翠が大きく手を振ってきた。

「ヘーイ! 補欠! アロハー」

その白い腕が前後の人にバシバシ当たり、前に居る結衣は怒鳴り出すし、後ろに居る子はとっさにしゃがんで身を守り出すし。

翠の周りは、今日も賑やかだ。

そんなこんなをしているうちに、方っ苦しい挨拶が始まり始業式が幕を開けた。

むんむんする熱気の中、校長先生の話が始まり、その長いこと長いこと。

全校の誰もが茹だるような湿気の中で、だらだらしている。

「えー、ですから、我が校の誇り高き伝統を受け継ぐためにも」

えへん、おほん、と無駄な咳払いをするのが校長先生の癖だ。

白髪頭にグレーのスーツ。

額はギトギトにテカらせて、校長先生は長くだるい話を続けた。

校長先生の挨拶は長距離マラソンのように長くて、苦痛だ。

その挨拶がようやく終わり、始業式が幕を閉じた。

生徒会長がマイクを使って、指示を出す。

「それでは、出口に近い1年生から順番に、クラスごとに速やかに退場して下さい」

一気にざわざわと騒がしくなり、ぞろぞろと蟻の行列が体育館を出て行くのを、疲れた顔で眺めていた時だった。