ギリギリと音を立てて歯軋りしそうなおれに、
「答えられないか。ごめんな、無謀な質問したな。ただ……野球だけにかまけてらんないよ、ってことを言いたかったんだ」
翠が大切ならなおさらね、と蓮は言い、おれの右横を軽快に上って行った。
おれは今すぐにでも蓮に飛びかかってぶん殴ってやりたかったけど、健吾の右手に救われていた。
少し落ち着きを取り戻したおれに、健吾が言った。
「気にすんな。蓮は悪気があってあんな言いぐさなわけじゃないから。あいつは、あれが普通なんだよ」
確かに、おれはあの人を見下すような言いぐさが気にくわない。
むしゃくしゃした気持ちのまま、おれは階段を踏み締めた。
でも、実際は言いぐさがどうこうとか、そんな事は大した問題ではなかった。
翠のことを呼び捨てにする男子は、おれと健吾くらいだったのに。
蓮は極普通に「翠」なんて口にしていて。
それが何よりも1番、気にくわなかった。
蓮は翠のことが好きなんだ、そんな勘違いをして勝手に苛立っていた。
でも、おれはこのあと気付くことになった。
蓮はおれの味方だったという事に。
「すっげえイラつく! 野球か翠か? くだらねえ。子供があんなんなら、親も親なんだろうな。親の顔が見てみたいもんだぜ」
ぶつくさぶつくさとあらゆる小言を漏らすおれを、健吾が笑った。
「蓮の親? やめとけ、やめとけ。響也なんか相手にしてもらえねえって」
「何で! 会ってみなきゃ分かんねえだろ? 文句言ってやる」
「やめとけ。蓮の親父さん、大学病院の教授だぜ? 母親も老人施設の理事長らしいし」
「へえ。だから何だってんだよ」
なんて言いながら「大学病院の教授」そう聞いたおれは、なるほどな、と納得した。
あのわがままし放題に見える生意気そうな態度も、どこか高飛車なところも。
前に噂で耳にした金持ちの坊っちゃんだということも。
大学病院の教授と老人施設の理事長に育てらりゃ、生意気で高飛車にもなるか。
「答えられないか。ごめんな、無謀な質問したな。ただ……野球だけにかまけてらんないよ、ってことを言いたかったんだ」
翠が大切ならなおさらね、と蓮は言い、おれの右横を軽快に上って行った。
おれは今すぐにでも蓮に飛びかかってぶん殴ってやりたかったけど、健吾の右手に救われていた。
少し落ち着きを取り戻したおれに、健吾が言った。
「気にすんな。蓮は悪気があってあんな言いぐさなわけじゃないから。あいつは、あれが普通なんだよ」
確かに、おれはあの人を見下すような言いぐさが気にくわない。
むしゃくしゃした気持ちのまま、おれは階段を踏み締めた。
でも、実際は言いぐさがどうこうとか、そんな事は大した問題ではなかった。
翠のことを呼び捨てにする男子は、おれと健吾くらいだったのに。
蓮は極普通に「翠」なんて口にしていて。
それが何よりも1番、気にくわなかった。
蓮は翠のことが好きなんだ、そんな勘違いをして勝手に苛立っていた。
でも、おれはこのあと気付くことになった。
蓮はおれの味方だったという事に。
「すっげえイラつく! 野球か翠か? くだらねえ。子供があんなんなら、親も親なんだろうな。親の顔が見てみたいもんだぜ」
ぶつくさぶつくさとあらゆる小言を漏らすおれを、健吾が笑った。
「蓮の親? やめとけ、やめとけ。響也なんか相手にしてもらえねえって」
「何で! 会ってみなきゃ分かんねえだろ? 文句言ってやる」
「やめとけ。蓮の親父さん、大学病院の教授だぜ? 母親も老人施設の理事長らしいし」
「へえ。だから何だってんだよ」
なんて言いながら「大学病院の教授」そう聞いたおれは、なるほどな、と納得した。
あのわがままし放題に見える生意気そうな態度も、どこか高飛車なところも。
前に噂で耳にした金持ちの坊っちゃんだということも。
大学病院の教授と老人施設の理事長に育てらりゃ、生意気で高飛車にもなるか。