今年もブルペンのフェンス横で向日葵が豊かに花開き、夕焼け色に揺れていた。








練習帰り自転車でぶっ飛ばして、汚れた練習着のまま翠の家に向かった。

「今日、背番号発表される日なんでしょ?」

と朝から電話をしてきた翠に早く背番号を見せたくて、その思い一心でおれは夢中になってペダルを踏み続けた。

翠の家に到着しチャイムを鳴らすと、おれが来ることを予測していたかのように翠が部屋着で飛び出してきて、抱き付いてきた。

「ちょっと! どうだったのよ! エースになれたか? 補欠」

「まあまあ、落ち着けって。そんなに興奮すんな」

「うるせー! どうだったのさ」

「まあまあ」

おれは自転車のカゴに突っ込んでいたスポーツバッグから、貰ったばかりのそれを引っ張り出し、仄暗くなり始めた空に高くかざして見せた。



「どんなもんじゃー! エースだ!」

「ヒャッホー! それ、あたしにも触らせろ」

と翠は目を輝かせ、おれから背番号をぶん取って家の中に駆け込んでいった。

足元は裸足だった。

間も無く、玄関からさえちゃんとちび2人も飛び出してきて、おれを抱き締めて笑った。

何だか本当の家族みたいだ、なんて。

照れ臭くて仕方なかった。

「よくやった、補欠! もう、あんたのこと補欠って呼べないじゃないのよ」

おれを抱き締めながら、さえちゃんが言った。

でも、翠はおれに抱きついて、そんな甘くない、と言い張った。

「甲子園出場決めるまで、あんたは補欠よ! 調子こくな」

「えー……何だよ、それ」

念願だったエース番号を手にし、翠とも円満で。

おれは人生最大の幸せの頂点に立ったような気になっていた。

そう思い込んで、おれは完全に自惚れた阿呆だった。

調子に乗っていたのだ。

この一瞬の幸福が何億粒にもなって、一生降り注ぎ続くんだ、と思っていた。

うわべだけは一丁前のエース。

でも、本当のあるべき姿は膨大な人生のひとまたぎの瞬間に溺れる、情けない補欠だったのだと思う。

「もう返せよ、おれのだぞ」