それくらい、この番組におれは憧れて、欲しくてたまらなかった。



その1本線の数字はどこにでもありふれているものなのかもしれない。

しかし、おれにとっては果てしなく遠く、くらくら目眩がしてしまうほど眩しい数字なのだ。

欲しくてたまらなかった。

ずっと、だ。

「夏井。おれはお前の左腕にかけてみようと思ってる。1年からよく頑張ったな」

「おす」

「エースの自覚を持ちなさい、夏井」

髭面監督は、普段から無口で怒ると怖い。

他人に厳しく、自分にはもっと厳しく。

それが口癖だ。

そんな鬼監督からの思いがけない言葉に、おれは不覚にも涙してしまった。

「甲子園に行こう、夏井」

涙がとまらなかった。

「泣くんじゃない、夏井! お前と岩渕は、もっと強いバッテリーにならんといかん。おれは信じてる」

「……はい!」

笑えるけれど、鬼監督が優しい天使に見えた。

泣いているおれに、ずっとライバル関係を保ってきた翼が、涙目で握手を求めてきた。

「響也、おめでとうな」

「ありがとな」

「おれ、お前が嫌いだったよ。でも、今はそれなりに好きかもしれない」

おれは翼が居なかったら、この背番号を手にできなかったのだろう。

翼とは因縁のライバルだった。

いつも火花を散らして、ブルペンの取り合いばかりしてきた。

口もきかない日が何日も続いたこともあった。

「翼、おれはもっと嫌いだったよ。でも、これからは二枚看板でやってこう。助けてくれ」

翼のごつごつした手を強く握り返しお互い微笑んだあと、翼が涙をぼろぼろこぼしながら言った。

「お前の後ろには最強の仲間が居るってこと、忘れるなよ」

「ああ」

「お前の肩が動かなくなってもおれが居るってことも。1人相撲だけはするな」

みんなで甲子園行こうぜ、そう言って、翼はアンダーシャツの袖で汗と涙を拭い去った。

後ろを振り返れば、仲間が居た。

この世の幸せを独り占めしたような顔をして、みんな笑っていた。

もしかしたら、おれ達は最高のチームに恵まれたのかもしれない。