翼は良き仲間であり、1番の強敵だ。

ライバル。

同じポジションを狙う、入部して以来の因縁のライバル。

おれも翼も、左投げか右投げかの違いだけで、レベルはどっこいどっこいだ。

どちらが選ばれてもおかしくない、と部員達の間で囁かれ続けて今日に至る。

おれはこの関門を突破しない限り、あのマウンドには立てない。

それは翼も同じだ。

先に発表されたのはキャッチャーで、予想通り健吾だった。

健吾の右肩の強さに勝てる者は、今のところこの部には居ない。

茜色に染め抜かれた夏のグラウンドに、本日最大の緊張感がピリピリ張った。

はしゃいでグラウンドを駆けずり回っていたやつらも、気付けば元の位置に戻り、監督の顔をじっと睨み付けていた。

監督は難しい顔をして、ひとつ咳払いをした。

「えー、それではエースを発表する」

おれは健吾の右横に立ち、おれの右横には翼が立っている。

3人は同時にごくりと唾を飲み込んだ。

手が震える。

おれは手のひらに大量の汗を握っていた。

「1番、ピッチャー」

やばい。

倒れるかもしれない。

走ったわけでもないのに、呼吸が乱れる。

膝がガクガク笑っている。

「夏井響也」

「はっ……うらあー! 健吾!」

「響也ーっ」

夏井、響也。

その名前を聞いた瞬間におれは返事するのも忘れて、健吾とがっちり抱き合った。

「響也! もう補欠じゃねえなあ」

「夢じゃねえよな? 健吾」

「夢だー!」

健吾と抱き合っていると監督に怒鳴られ、早く背番号取りに来ないなら取り上げるぞ、なんて言われる始末だった。

かなり、焦った。

おれは慌てふためいて、花菜の元へ走った。

「背番号ください」

「お兄さんを超えるエースになってね、響也。今日まで本当にすっごい頑張ったもんね」

「馬鹿だな。何で花菜が泣くんだよ」

「だって! はい、背番号」

「さんきゅ」

花菜の小さな手から渡ってきた薄っぺらい布切れが重たくて、この鍛え上げられたおれの腕が折れそうだ。