「そりゃ、よーござんした」

夏の始まりの、少し切ない昼休みだった。

でも、これは序章に過ぎず、これから待ち受けている苦しい日々の幕開けに過ぎなかった。

地獄の一丁目に差し掛かっただけに過ぎなかったのだ。

この夏を境目に、おれ達の高校生活は大きくカーブし、何本もの別れ道に迷い込む事になった。

まるで、葛折をさまよい歩くように。

たぶん、富士の樹海よりも険しくて、東尋坊よりも崖っぷちで。

命の危険と二人三脚の深い森に迷い込むように。

恋も友情も巻き込んで、全てにおいて歯車が大きく狂い出していた事に、おれ達は何も気付けなかった。

トルコギキョウが夏の暑さでしおれかけていた事にすら、おれは気付いていなかったのだ。









南高校

悲願の2連覇ならず

横綱桜花にゴールド負け

エース本間
マウンドに泣き崩れる








7月29日の地元スポーツ新聞の一面を飾った言葉達は、南高校の敗北宣言だった。

ノーシードで1回戦を勝ち上がったものの、2回戦でおれ達を待っていたのは第1シードの権利を持っていた、桜花大学附属だった。

初回から満塁ホームランを浴びた本間先輩は、その後力み過ぎたのか途中からいつもの調子を崩した。

ガタガタだった。

4対0

桜花のリードが続き、6回裏に桜花の勝利を決定付ける一打を放ったのは、修司だった。

修司は2年生にして「桜花の大砲」というキャッチコピーを付けられるような選手に成長していた。

6回裏。

ノーアウト、ランナー1、3塁。

本間先輩が投じた低めに落ちたのシュートを、修司はすくい上げてバックスタンドへ放り込んだ。

7回表。

最後の打席に立ったのはキャッチャーの鈴木先輩で、涙の内野フライだった。

その夏、甲子園行きの切符を手にしたのは、またしても修司だった。

おれでも健吾でもなく、修司。

おれは茹だるような暑さの中、ベンチの片隅に本間先輩が泣き崩れる瞬間を見て、気が狂いそうだった。

悔しくて、たまらなかった。

グラウンドを去る時の本間先輩は歩くのもままならないほどで、ふらふらしていた。