「はいよ。塩バターコーン2つと餃子2枚ね! お姉ちゃん、元気だねえ」

額に一粒の汗を貼り付けて、おじさんは豪快に笑った。

「もー、元気元気! てか、早くして! あたし、腹減ると生命力維持できないの」

翠とおじさんの会話に、周りのお客さんが箸を止めて笑った。

おれは笑いの絶えない通路を小さくなって通り、翠の隣に座った。

翠は甘い香りを漂わせて、フンフンと鼻歌を奏でていた。

「おれ、味噌ラーメン食いたかったのに。何で勝手に注文しちゃうんだよ」

チャーシューと葱がたっぷり乗っかった、香ばしい香りただよう味噌ラーメンが食いたかったのに。

おれが少しいじけていると、翠はおれの背中をバシバシ叩いて豪快に笑った。

「男がチンケな事言うなよ! 塩ラーメンうまいんだから」

「いや、分かるけどさ」

それから10分も待たないうちに、塩ラーメンと餃子が目の前に登場し、翠は目を輝かせた。

ダークグリーン色の瞳を。

「いただきまーす」

確かに、腹が減っていたのは事実だ。

でも、箸が思うように進まないのは、翠に釘付けになってしまったからだ。

塩バターコーンラーメンは、文句一つなく本当にうまかったけど。

でも、翠の食いっぷりには完敗だった。

塩バターコーンラーメンを間食し、れんげは一切使用せずどんぶりに口をつけてスープをイッキ飲み。

餃子も見事に食べつくし、それでも翠はおれの餃子にまで箸をのばした。

「補欠、この餃子2つだけくれ」

「ああ、うん。食いな」

「シェイシェ!」

おれのラーメンはビヨンビヨンに伸びてしまって、可哀想だった。

右隣に座っていた年配のご夫婦や、ラーメン屋の店員さん達まで、翠の食いっぶりに釘付けになっていた。

この細っこい体のどこに、こんな量がするする入って行くんだろうか。

翠の胃袋はきっとブラックホールに違いないな、とおれは笑わずにはいられなかった。

年配のご夫婦には、元気な彼女さんだね、なんて言われたりもした。

確かに、翠は食いっぷりまで豪快だった。