嘘一つ感じられない、真っ直ぐな修司の目をじっと睨んで、突然、翠が言った。

「へえ。でもな、修司?」

「何?」

「悪いけど、甲子園に行くのはこの補欠って決まってんの! あんたには気の毒だけど、甲子園は諦めな」

何を根拠にして、そんな事を言い出したのかは分からないが、堂々と胸を張って言う翠に、修司は、望むところだ、と反撃をした。

翠のどんぐり眼が、鋭くつり上がった。

「フンッ! 生意気言って。あたしの予言は当たるんだから! ノストラダムスなんて鼻くそよ!」

腕を組み、得意気に翠は笑った。

おれも修司も絶句して、でも、同時にクスクス笑った。

「響也、お前には最強の味方がいるんだな! 大事にしてやれよ」

「ああ」

それから数時間、修司は見事に打ちっぱなしをした後、おれ達よりも先にバッティングセンターを後にした。

帰る間際、修司がひょんな事を訊いて来た。

「今の響也の勝負球は何?」

「今はまだ未完成だけど、来年の夏には完璧にしとくよ。スライダー」

「お。相澤隼人の後を継ぐってやつか。スライダー」

「相澤先輩よりもすげえやつ投げる」

おれが笑うと、修司はライバル心を剥き出しにして、フッと鼻先で笑った。

「じゃあ、そのスライダーはいずれおれがホームランにしてやるよ」

「何? 負けねえ! 修司なんか簡単に三振とれるエースになってやる」

そう言って、おれも鼻先で笑い返すと、

「やっと、いつもの響也だ」

と修司は言って、都合悪そうに小さく笑った。

「がっかりしたなんて言って、ごめんな」

「いや、おれの方こそごめんな。甲子園、頑張って来いよな! 応援してる」

「修司! お土産よろしくー。奮発しろよ」

おれと修司の横で、翠が可愛いらしく微笑んでいた。

おれはその時、情けなくて跳べなかったハードルを、ひとつ飛び越えたような気持ちになった。

すごく、晴れ晴れとした気分だ。

バッティングセンターの出窓の奥に広がって見える、あの深い青色の空のように。

おれの心が、清らかに晴れていた。

修司が変わったわけじゃない。