「きっ……響也! この子、何? 怖いんだけど」

翠の迫力にたじたじになる修司を見て、不貞腐れている自分が何だかばかばかしくなった。

おれは笑った。

「おれの女だよ。翠っていうんだ。ぶっきらぼうだけど、悪いやつじゃないから」

と言い、翠にも修司を紹介してやると、翠はようやくバットを下ろした。

なんだ、補欠の友達だったのか、と翠は笑った。

「このあたしが夏井響也の女だ! 修司、よろしくな」

初対面で、初めての会話で、いきなり馴れ馴れしくされたのに、修司は呆気にとられながらもげらげらと笑った。

「響也ってすっげえのと付き合ってるんだな。おれ、こんな女の子、生まれて初めて会ったよ」

「だろ。実はおれもだよ」

久しぶりのデートでバッティングセンターに行きたい、と言い、ワンピースに裸足でバッティングをしてしまうような女は。

おれの友達に突然怒鳴り出し、初対面のやつをいきなり呼び捨てにするような女は、たぶん、翠くらいだろう。

げらげら笑い合うおれと修司の間を割って入ってきたのは、勿論、翠だった。

「修司! 補欠の事いじめたらぶっ殺す! 補欠はねえ、あたしの嫌いなピーマンとか食ってくれる、優しいやつなんだから」

「はあ? あはは! 知ってるよ、響也が優しいやつだって事は」

「それに、野球の練習とか人一倍頑張ってるんだから!」

「うん。響也が努力家なのも知ってるよ。あと、いじめてたわけじゃないよ」

本当に変わった彼女だなあ、と修司は言い、少し困ったように笑った。

「けど、補欠、泣きそうな顔してたじゃん! 修司がいじめたんだろ?」

これじゃあ、どっちが彼氏でどっちが彼女なのか、訳が分からない。

翠はおれの彼氏みたいだ。

「違うよ。翠ちゃん、安心して。本当にいじめてないから」

響也と約束してたんだよ、と修司は言い、翠に微笑み掛けて続けた。

笑うと、修司は右頬にだけえくぼができる。

「来年の夏は県予選の決勝で会おうなって、約束してたんだよ。な、響也」

「え! ああ、そうだな。うん。負けねえぞ」

とおれは言い、しっかり頷いた。