いつ標的にされるか、分かったもんじゃない。

翠達が囲んでいる机の上は無法地帯だ。

荒れ果てたジャングルのようだ。

B5サイズの手鏡に、化粧道具。

弁当箱、惣菜パンの空袋。

ポッキーやじゃがりこの食べ掛け、飲み掛けのペプシコーラ。

この残暑の中、放置されているペプシコーラのペットボトルの内面は、白く曇りぽつぽつと水滴が付いていた。

いつか店でも開けるんじゃないか、とおれは常々思っている。

無論、今も、だ。

翠は炭酸系のジュースが好きなのだろうか。

気付けばいつも、ペプシコーラかサイダーが彼女の机に置いてある。

炭酸ジュース以外の物を飲んでいる翠を、おれは一度も見た事が無い。

「うわ……おれ、無理」

昼下がりの繁華街を見つめながら、健吾は溜息混じりにぼそりと呟いた。

「翠達みたいな野蛮チックな女。絶対、彼女にはしたくないかも」

健吾は体が大きいくせに、ストライクゾーンが狭い。

ハイ、ロウ、イン、アウト。

全てのコースが基本的に狭い。

健吾のど真ん中を射抜くのは大人しくて清楚な女の子だから。

今のは仕方のない呟きなのだ。

元気で活発な女よりも、少し人見知りがちでどこか影のあるような女の子が、健吾は好きだ。

それは、小学4年生に知り合った頃から、ずっと、だ。

「響也もそう思うだろ?」

「ああ。だな」

とおれは同意し、相づちを打ち返した。

でも、とおれは思う。

そう思いながら、翠をじっと見つめた。

女はあれくらい元気なのがいい。

丁度良い。

変にもじもじされるより、ああいうのは見ていて爽快だ。

スカッとする。

おれはべらべら話すのが得意な方ではないので、羨ましいくらいだ。

おれの母さんも、おれが幼い頃に天国へ旅立ったばあさんも。

周りに居る女はみなさばさばしていて、後腐れのないあっさりしている性格だからなのかもしれないが。

清楚で大人しくてミステリアスな女の子よりも、明るく元気で活発過ぎるくらいの女が、おれは好きだったりする。

でも、あれ、はちょっと無いな。