頭では分かっているのに、感情のコントロールができない。

「修司、中学と高校は違うよ」

「響也……どうした? お前変わったな」

「何がだよ! 変わったのは修司だろ? 修司はいいよな。野球だけやってりゃいいんだから」

勉強のせいにするなんて汚くて情けないけど、完全なる敗北者になったおれは冷静にはなれなくなっていた。

「おれは桜花みたいなスポーツ学校じゃなくて、一応、進学校に通ってるんだ。野球ばっかにのめり込んでらんねえよ!」

修司は不機嫌に眉間に皺を寄せ集めて、おれから視線を反らした。

「中学の頃が1番楽しかったな。響也と健吾と同じグラウンドで走り回ってさ……おれ、今の響也にがっかりしたよ」

修司の言葉に愕然として、訳がわからなくなった。

がっかりしたよ。

その一言が、おれの体を真っ二つに切り裂いた。

悔しくて情けなくて、仕方なかった。

下らない言い訳を並べ、修司に当たり散らした自分に腹が立った。

おれは何も言い返す事ができずに、ジーンズのポケットに両手を突っ込んで、この期に及んでも不貞腐れた態度をとり続けた。

「こらあー! そこのハゲー! 補欠の事いじめてんじゃねえよ!」

そう叫んでドシドシ足音を立てて走って来たのは、どんぐり眼をつり上げたフランス人形だった。

右肩にバットを掛けて、豪快に走って来る。

修司は驚いた顔で振り向き、走って来る翠を化け物でも見るような目付きで見ていた。

翠は背高い修司の顔を下から覗き込み、顎を突き上げて睨み付けた。

今日はダークグリーン色のカラーコンタクトレンズをしていて、ますますミステリアスな目をしている。

「ハゲ!」

「えっ……えっ……」

翠の迫力に負けた修司は一歩後退りし、困り果てた顔をした。

「おい、こら! ハゲ! あたしの補欠に何か文句あんのか?」

「え、いや……あたしの補欠って……」

翠は1メートルほど後退し、バットの先端を修司に突き付けた。

「ハゲ! 補欠の事泣かしたらただじゃおかねえぞ! 文句があるなら、このあたしに言いな!」