その時、修司から告げられた事を聞いて、一瞬、おれは立ちすくむ事を余儀なくされた。

冷静を保つ事が難しかった。

「おれ、甲子園でベンチ入りなんだ。夏からはナインに決まった。中学の頃と同じセンターなんだ」

予想よりも遥か彼方を修司が走っていた事に、改めて気付かされた。

中学3年間、共に笑い涙した仲間が成長している事は嬉しかったのに。

でも、その時のおれは素直に嬉しさを呑み込めずにいた。

噛み砕いて、噛み砕いて、もう簡単に飲み込めるくらい砕けていたのに。

うまく呑み込んでやることができない。

喉の奥で引っ掛かっている、魚の小骨のようだった。

痛くて、痛くて。

もどかしくて、歯がゆくて、悔しくて。

絶え間なく響くBGMと金属バットの音の中、おれはそこに翠が居る事すら完全に忘れていた。

情けない顔で立ち尽くしているおれを、翠が見ていたなんて知らなかった。

良かったな。

頑張ったな、修司。

おめでとう。

3年間、共に戦ってきた仲間に、最高の仲間に、その言葉たちを言えないおれは小さい男だ。

「そうか」

その悔しさに満ち溢れた3文字しか口にできないおれは、どこまで小さい男なんだろうか。

巻き尺で図ってみたいものだ。

「響也は? もちろん、今もピッチャーやってるんだろ?」

おれがむしゃくしゃしている事を知るはずもない修司が、なに食わぬ顔で訊いた。

「ああ、うん。補欠だけどな」

「そっか! 早くのしあがれよ。おれ、響也と健吾と決勝で会うのが、今の夢なんだ」

嫌味じゃない事くらい分かっていた。

修司は嫌味を言うようなやつじゃない。

修司の笑顔はあの頃と何一つ、変わっていないじゃないか。

それなのに、おれはぐずる子供のように、反発心剥き出しの声を出していた。

変わってしまったのは修司じゃなくて、たぶん、おれだ。

「エースになれるかなんて分かんねえよ! おれはお前とは違うよ、修司。勉強だって大変なんだ」

それがただの言い訳にしか過ぎない事は分かっているのに、おれはやるせない気持ちに負けて、修司の笑顔を曇らせてしまった。