「そんなにキツいのか? 桜花の練習は」

おれが訊くと、頭一つ高い場所から修司は、まあな、と言って右肩を突きだしてきた。

「見ろ、この筋肉。1年間しごかれた勲章だぜ」

「すっげえ! やっぱ名門は違うなあ」

修司が選んだ桜花は県内で1番の、高校野球の名門校だ。

そして、県内で最も甲子園球場に近い場所だ、と有名なスポーツ校だ。

知らない人はいない。

中学の頃よりも遥かに成長した修司の肩幅を見て、おれは自分がちっぽけに感じて仕方なかった。

「健吾は元気か?」

修司が訊いた。

「ああ、馬鹿みたいに元気だよ」

「だろうな。今日は練習休みなのか?」

「うん。休み。修司も休みか?」

おれが訊き返すと、修司は首を振って笑った。

「休みってわけでもないんだけどさ」

修司は桜花の寮に入っていて、この地元に居るなんて珍しい事だ。

修司はにやりと微笑んで言った。

「明日から遠征なんだ。しばらく県外回るから、昨日実家に顔見せに来たんだよ。今日の午後には寮に戻る」

練習があるから、と修司は言った。

「遠征? 明日から新学期だろ? 私立と公立は違うな」

へえー、と感心していると、修司は誇らしげに笑った。

「兵庫入りする前に、県外の強豪と練習試合して回るんだ。明日から、まずは宮城。その後、新潟にとんで、その後は静岡……」

「うわ、ちょい待った」

おれは修司の話を途中まで聞いて、途中で止めた。

修司のマシンガンのような口調から、次々に飛び出す行った事すらない県を聞いて、頭が混乱し始めたからだ。

ククッ、と笑う修司の正面でやや間を置いて、おれはハッとして修司の顔を見た。

「そうか! 今年の春の選抜は桜花だもんな」

おれは言い、同時に悔しさをぶり返した。

去年、秋。

県予選で、断トツの強さを見せつけ優勝し、春の選抜甲子園行きの切符を手にしたのは、桜花大学附属だったのだ。

おれではなく、健吾でもなく。

今、目の前にいる修司だ。

同じグラウンドで走り回っていた仲間が、今はおれと健吾よりもずっとずっと先を走っていた。