特に、ラーメンと餃子が好きだった。

次の一球はど真ん中ストレートで、翠はコツをつかみ始めたのか、見事に打ち返した。

無鉄砲なフルスイングで。

おれはちょっとだけがっくりして、笑った。

ああ、これで翠の餃子代も財布からパタパタ飛び立って行くのだろう。

翠はキャアキャア跳び跳ねて、とても楽しそうにボールを打ち返した。

途中なか、小学生くらいで阪神タイガースの野球帽をかぶった少年がやってきて、翠を誉めちぎった。

「お姉ちゃん、すっげえー! カッコいい」

ちょうどおれの腰の辺りまでしかない低い背丈で、丸坊主頭。

少年は阪神タイガースのファンならしく、あどけない笑顔にその縦縞の帽子が本当に良く似合っていた。

「ねえねえ。もう一回打ってみてよ、お姉ちゃん」

翠は少しはにかんで、少年に微笑んだ。

「お、その帽子カッコいいー!」

「でしょ! お父さんに買ってもらったんだぜ」

「良かったなあ! よし、姉ちゃん打つから見てな」

「うん」

翠は本当にきっちりと打ち返して、どんなもんだ、と言わんばかりに胸を張った。

「お姉ちゃん、すっげえ! 女のくせに野球できるのか」

と言い、少年は目を輝かせてかなり興奮しているようだった。

誉められてまんざらでもない様子の翠はバットを肩に掛け、少年の頭をぐりぐり撫で回した。

「野球好きなんだな。うまくなりたいか?」

翠が訊き、少年はこの薄暗い屋内でも眩しいくらいの笑顔をして頷いた。

「うん! ぼくさ、プロ野球選手になるんだ」

阪神タイガースに入る、と少年は言った。

「へえ、超カッコいい! 頑張りな」

「うん!」

「じゃあ、阪神タイガースに入ったら姉ちゃんにもサインくれる?」

「いいよ、あげる」

翠から頭を撫でてもらった少年は、へへっ、と照れ臭そうに笑ってお父さんのところへ走って行った。

何だか2人のやりとりが微笑ましくて、おれは絶え間なく微笑みをポロポロ溢した。

「補欠、あたし喉渇いた! 何か飲み物買ってきて」