バッティングマシーンのすぐ後ろには巨大なスクリーンがあって、有名なプロ野球選手が豪快なフォームで投球する映像が流れている。

ガンッ、と音がした瞬間に球は飛んで来て、翠の背後のネットを突き破りそうなほど勢い良く突き刺さった。

「何これ、速い! ちくしょう」

そのあとも一定のリズムで球は飛んできて、でも、翠は太刀打ちできずに立ち尽くしていた。

とても悔しそうに。

可愛い顔を、くしゃくしゃに歪ませて。

「打てん! 花菜ズ兄のは打てたのに!」

「あれはまぐれだ。野球なめんなよ?」

おれは言い、翠からバットを奪い打席で構えた。

おれを狙って飛んできた球はぐいーっと右に曲線を描き、それはカーブだった。

おれが最も得意とする、インハイに飛んできた。

キィン、と音を響かせて打ち返すと、見ていた翠の闘志に火がついたらしい。

「補欠が打てるんだから、あたしはもっと打てる!」

なかなか立派で負けず嫌いな女だ。

「この一球に、今日の昼飯の全てをかける!」

そう言い、翠はネット裏に移動したおれに向かって、バットを水平に突きつけた。

「見てな、この一球にかける!」

翠のその姿を見ていると、フラッシュバックにあったかのようにあの日の光景が鮮明に蘇った。

9月の青い空。

グラウンドのフェンスを取り囲む生徒達の声。

マウンドに立つ相澤先輩と、おれから打席を奪ったねじりはちまき姿の翠。

あの日、左中間を駆け抜けるヒットを、翠は打ったっけ。

この一球に高校生活をかける、なんて大袈裟なことを言って。

「どりゃあああーっ!」

翠の無鉄砲なフルスイングは飛んできたスライダーを捕らえ、真っ正面にライナーを放った。

バッティングセンターのマシーンでさえ、翠の気迫には勝てなかったようで。

「補欠、今日の昼飯ラーメンおごって」

翠は満足感たっぷりに微笑んて、仁王立ちしてみせた。

「分かった、分かった。ラーメンな」

「やった! じゃあ、次打ったら餃子も追加」

「打てたらな」

翠は細っこい豆もやしのような体型をしているわりに、本当によく食べる。