「答えは千秋の中にあると思っていいんじゃない? 魂が抜けた心当たりは?」
「ありませんよ!」
私は不機嫌に言ってから、ハッとする。
「……いや、交通事故に遭ったとか?」
「それはないね。肉体が損傷していたら私には分かる。……多分だけど、千秋は特殊な状況下にあるけど、大きな怪我はしていないし、病気にもなっていない」
「じゃあ、なんで幽体離脱を……」
「着眼点をずらそう。身近な人で変わった行動をした人はいた?」
尋ねられて脳裏に浮かんだ人がいて、私は溜め息をついてから話し始めた。
「三津邑柚良っていう親友がいます。同じ大学に通っていて、お嬢様なんですけど気取った所がない、いい子です。育ちが良くて考え方も大人びていて、温厚で頭も良くて人望があります。なんで私みたいなのと親しくしてくれてるんだろう? って思うぐらいなんですが、とにかく良くしてもらっています」
「その柚良ちゃんがどうかした?」
「今年のゴールデンウィーク前、池袋のイタリアンバルで柚良とご飯を食べていたら、男性二人組に声を掛けられたんです。いつもなら私たちはナンパに応じません。……でもあの日の柚良は変なテンションで、ナンパしてきた男性と付き合い始めたんです」
私はその時の様子を思いだし、眉間に皺を寄せる。
「その男性は猟沢緋一さんと言って、イケメンです。森浜フーズという大手飲食会社で、やり手の営業マンとして働いてるそうです。顔もいいし、センスもいいし、多分普通の女の子ならナンパされて応えてしまうんじゃないかと思います。でも、柚良はナンパ男なんかに応えるはずがないんです。彼女はお嬢様だし、望めばもっと凄い人と付き合えます。だからおかしいんです」
私は腕組みをし、椅子の背にもたれ掛かる。
「緋一さんと付き合うようになってから、柚良は人が変わりました。今までは友達を大切にして、学業が一番、男性は三番以下って感じだったのに、緋一さんしか目に入っていないんです。それに緋一さんってかなりのクズなのに、別れようとしないんです。『そんな男やめなよ』って言っても、逆にキレられて険悪になってしまう始末で……」
その結果、私は柚良に嫌な噂を流され、大学で孤立しかけている。
凪さんはお茶を飲んでから言った。
「いきなり人が変わるって、大体原因があるんだ。精神疾患も考えられるけど、健康な人が急にそうなる場合、目に見えないモノが干渉している事が多い」
「憑かれた……とかですか?」
「一般的にはそう言うね。柚良ちゃんもその可能性がある。でも、千秋の体がどこにあるか分からないように、柚良ちゃんがそうなった原因はまだ分からない。ただ、私の見立てでは、千秋がこうなった理由にその二人も関わっていると思う」
ふりだしに戻ったと感じた私は、肩を落として言う。
「でも柚良に話を聞くにも、私の事が見えないんでしょう? どうすればいんですか?」
尋ねると、凪さんはようやく答えを出してくれた。
「二重にも現世にも関われる人に助けを求めるしかないね」
「凪さんは!? ここまで関わったなら、助けてくれますよね!?」
期待して彼女を見たけれど、凪さんは笑顔で切り捨てた。
「無理」
「どうして! こんなに困ってるのに! 死ぬかもしれないんでしょう!?」
私は声を荒げて訴えたけれど、――凪さんの表情を見て口を閉ざした。
彼女はとても申し訳なさそうな、切なげな顔をしている。今まで何を言っても飄々としていた凪さんが、こんな顔をするなんて余程の事だ。
だから私は「この話題をこれ以上掘り下げたら駄目だ」と理解した。
物知りな凪さんであっても、できない事はあるのだ。
「じゃあ、このお店に来るお客さんは? 常連さんがいるんでしょう?」
「常連さんが店を訪れても、彼らに君の姿は見えないよ」
「……どうすればいいの……」
私が溜め息をついた時、「お客様のご来店~!」とハキハキした男性の声がした。
「うわぁっ!」
声を上げた私は、文字通り跳び上がらんばかりに驚き、声の主を探して左右を見る。
「ありませんよ!」
私は不機嫌に言ってから、ハッとする。
「……いや、交通事故に遭ったとか?」
「それはないね。肉体が損傷していたら私には分かる。……多分だけど、千秋は特殊な状況下にあるけど、大きな怪我はしていないし、病気にもなっていない」
「じゃあ、なんで幽体離脱を……」
「着眼点をずらそう。身近な人で変わった行動をした人はいた?」
尋ねられて脳裏に浮かんだ人がいて、私は溜め息をついてから話し始めた。
「三津邑柚良っていう親友がいます。同じ大学に通っていて、お嬢様なんですけど気取った所がない、いい子です。育ちが良くて考え方も大人びていて、温厚で頭も良くて人望があります。なんで私みたいなのと親しくしてくれてるんだろう? って思うぐらいなんですが、とにかく良くしてもらっています」
「その柚良ちゃんがどうかした?」
「今年のゴールデンウィーク前、池袋のイタリアンバルで柚良とご飯を食べていたら、男性二人組に声を掛けられたんです。いつもなら私たちはナンパに応じません。……でもあの日の柚良は変なテンションで、ナンパしてきた男性と付き合い始めたんです」
私はその時の様子を思いだし、眉間に皺を寄せる。
「その男性は猟沢緋一さんと言って、イケメンです。森浜フーズという大手飲食会社で、やり手の営業マンとして働いてるそうです。顔もいいし、センスもいいし、多分普通の女の子ならナンパされて応えてしまうんじゃないかと思います。でも、柚良はナンパ男なんかに応えるはずがないんです。彼女はお嬢様だし、望めばもっと凄い人と付き合えます。だからおかしいんです」
私は腕組みをし、椅子の背にもたれ掛かる。
「緋一さんと付き合うようになってから、柚良は人が変わりました。今までは友達を大切にして、学業が一番、男性は三番以下って感じだったのに、緋一さんしか目に入っていないんです。それに緋一さんってかなりのクズなのに、別れようとしないんです。『そんな男やめなよ』って言っても、逆にキレられて険悪になってしまう始末で……」
その結果、私は柚良に嫌な噂を流され、大学で孤立しかけている。
凪さんはお茶を飲んでから言った。
「いきなり人が変わるって、大体原因があるんだ。精神疾患も考えられるけど、健康な人が急にそうなる場合、目に見えないモノが干渉している事が多い」
「憑かれた……とかですか?」
「一般的にはそう言うね。柚良ちゃんもその可能性がある。でも、千秋の体がどこにあるか分からないように、柚良ちゃんがそうなった原因はまだ分からない。ただ、私の見立てでは、千秋がこうなった理由にその二人も関わっていると思う」
ふりだしに戻ったと感じた私は、肩を落として言う。
「でも柚良に話を聞くにも、私の事が見えないんでしょう? どうすればいんですか?」
尋ねると、凪さんはようやく答えを出してくれた。
「二重にも現世にも関われる人に助けを求めるしかないね」
「凪さんは!? ここまで関わったなら、助けてくれますよね!?」
期待して彼女を見たけれど、凪さんは笑顔で切り捨てた。
「無理」
「どうして! こんなに困ってるのに! 死ぬかもしれないんでしょう!?」
私は声を荒げて訴えたけれど、――凪さんの表情を見て口を閉ざした。
彼女はとても申し訳なさそうな、切なげな顔をしている。今まで何を言っても飄々としていた凪さんが、こんな顔をするなんて余程の事だ。
だから私は「この話題をこれ以上掘り下げたら駄目だ」と理解した。
物知りな凪さんであっても、できない事はあるのだ。
「じゃあ、このお店に来るお客さんは? 常連さんがいるんでしょう?」
「常連さんが店を訪れても、彼らに君の姿は見えないよ」
「……どうすればいいの……」
私が溜め息をついた時、「お客様のご来店~!」とハキハキした男性の声がした。
「うわぁっ!」
声を上げた私は、文字通り跳び上がらんばかりに驚き、声の主を探して左右を見る。



