愉快になった俺は緋一を飲みに誘い、池袋のイタリアンバルに行ってあいつの金で好きなだけ飲み食いし、彼を罵倒し続けた。緋一は馬鹿にされているのにニコニコして『そうですね、俺は最低のクソ野郎です。神野さんの足元にも及びません』と言い、それが愉快で堪らない。
緋一とフラワーカフェの女の仲を壊してやりたくなった俺は、店内にいた若い女の二人組に目を付けた。見たところ二人は女子大生といったところだろう。
皆の憧れの猟沢緋一が、いきなり人格が変わったように他人の悪口を言い、顧客の前でも失礼な事をし、『落ち着いた女性が好み』と言っていたのに女子大生と付き合い始めれば、同僚たちも幼馴染みの女も奴を見放すだろう。
(それに、女に言う事をきかせられるか試すいい機会だ)
俺は反対側のポケットに入れたペンダントを握り、女子大生二人組に話しかけた。
三津邑柚良という女子大生はすぐ俺の言う事を聞き始め、ヘラヘラと笑って誘いに応じた。もう一人は友達が応じるならという感じで同席したが、あっという間に友人と緋一が意気投合したのを強張った顔で見ていた。
『お近づきの印にこれをあげる。俺、このペンダントのお陰で五万円当てたんだぜ』
『うそー! 凄い!』
柚良は頭の悪そうな声を上げて喜び、さっそくペンダントを首に掛ける。
緋一も嬉しそうに『あざっす』と礼を言ってそれを身につけた。
『ちょっと……、柚良、やめなよ。そういうの趣味じゃないでしょ』
もう一人の千秋という女子大生が友人を窘めたが、柚良はもう俺の手中にある。
『なんなら、千秋ちゃんもいる? めっちゃいい事起こるよ』
俺は彼女の前にペンダントを下げ、心の中で『操り人形になれ』と念じる。
――が、千秋は複雑な表情で俺を睨んでキッパリと拒否する。
『要りません。あなた、マルチとか宗教の勧誘なんじゃないですか? 私たち、そういうのに興味ありませんから』
(……あれ? 効かない?)
俺は石を握り、千秋を見てニコニコ微笑んだまま『これからホテルに行かない?』と誘った。すると彼女はギョッとした顔をして俺を睨んだあと、『お断りします!』と言い、柚良に向かって『もう帰ろう』と促す。
(効かないなら仕方ないか)
それに、どうでもいい女子大生より、もっと適切な相手に使用したほうがいい。
『じゃあ、千秋ちゃんは別の機会にね』
そう言いながらも、俺は言う事を聞かなかったガキへの怒りを抱いていた。
(この俺が抱いてやるって言ったのに。頭の悪そうなブスガキが)
胸の奥で憎しみがグツグツと煮えたぎり、ペンダントが熱くなるのを感じる。石は俺の感情に呼応するように熱を持ったが、その熱が妙に心地いい陶酔感をもたらした。
(趣味が悪いだと? このペンダントの素晴らしさが分かってないくせに。お前なんて呪われちまえばいい。お前みたいなガキ、死ぬより苦しい思いを味わえばいい)
俺はポケットの中のペンダントを握り締め、心の中で彼女を呪う。
その日から緋一は周囲に暴言を吐く男になり、俺の望みは半分以上叶った。
だがその頃から、光輝が疑う目で俺や緋一を見るのが気になった。
あいつは神社の息子だというし、もしかしたら何か特殊な力があるかもしれない。
『見透かされているかも』と思うと、異様な焦りが俺を襲った。
(誰にも邪魔させない。お前にも痛い目に遭ってもらうぞ)
その日から俺は光輝に向かって『呪われろ』と心の中で念じる日々を送った。
願いが叶ったのか、光輝は一時体調不良で会社を休んでいたが、そのうちスッキリとした顔で復帰した。
俺の仕事の調子はよく、幸運な出来事も舞い込んだ。
一方で緋一はかつての人気はどこかへ、鼻つまみ者になろうとしている。給湯室であいつを絶賛していた女性社員も、『最近の猟沢さん、ないわー』と嘆息していた。
六月末になって、光輝が忌引きで休んだ。光輝を呪うつもりでいたが、あいつの親族が死んで精神的ダメージを負うならそれでもいい。なんなら、光輝の周りにいる奴を全員殺して、あいつを孤独と絶望に叩き込んで自殺に追いやってもいい。
光輝が休みから復帰した頃、俺は『お疲れさん』と奴に声を掛けて飲みに誘った。
亡くしたのは兄貴らしく、消沈している光輝を潰すなら今だと思った。
俺は落ち込んだ光輝に『幸運になるお守りだから、気持ちだけでも持っておけって』とペンダントを渡した。同時に命令した時は絶対服従し、ペンダントをつけている事も、俺に命じられた事も忘れるよう言い聞かせた。
――これで、いつでも邪魔者を消せる。
安堵したものの、もう一人心に引っ掛かっている人物がいた。
――羽根谷千秋。
あのガキはペンダントの力が効かなかったし、妙に勘が鋭いところがあるから、口封じをしなければ。
緋一とフラワーカフェの女の仲を壊してやりたくなった俺は、店内にいた若い女の二人組に目を付けた。見たところ二人は女子大生といったところだろう。
皆の憧れの猟沢緋一が、いきなり人格が変わったように他人の悪口を言い、顧客の前でも失礼な事をし、『落ち着いた女性が好み』と言っていたのに女子大生と付き合い始めれば、同僚たちも幼馴染みの女も奴を見放すだろう。
(それに、女に言う事をきかせられるか試すいい機会だ)
俺は反対側のポケットに入れたペンダントを握り、女子大生二人組に話しかけた。
三津邑柚良という女子大生はすぐ俺の言う事を聞き始め、ヘラヘラと笑って誘いに応じた。もう一人は友達が応じるならという感じで同席したが、あっという間に友人と緋一が意気投合したのを強張った顔で見ていた。
『お近づきの印にこれをあげる。俺、このペンダントのお陰で五万円当てたんだぜ』
『うそー! 凄い!』
柚良は頭の悪そうな声を上げて喜び、さっそくペンダントを首に掛ける。
緋一も嬉しそうに『あざっす』と礼を言ってそれを身につけた。
『ちょっと……、柚良、やめなよ。そういうの趣味じゃないでしょ』
もう一人の千秋という女子大生が友人を窘めたが、柚良はもう俺の手中にある。
『なんなら、千秋ちゃんもいる? めっちゃいい事起こるよ』
俺は彼女の前にペンダントを下げ、心の中で『操り人形になれ』と念じる。
――が、千秋は複雑な表情で俺を睨んでキッパリと拒否する。
『要りません。あなた、マルチとか宗教の勧誘なんじゃないですか? 私たち、そういうのに興味ありませんから』
(……あれ? 効かない?)
俺は石を握り、千秋を見てニコニコ微笑んだまま『これからホテルに行かない?』と誘った。すると彼女はギョッとした顔をして俺を睨んだあと、『お断りします!』と言い、柚良に向かって『もう帰ろう』と促す。
(効かないなら仕方ないか)
それに、どうでもいい女子大生より、もっと適切な相手に使用したほうがいい。
『じゃあ、千秋ちゃんは別の機会にね』
そう言いながらも、俺は言う事を聞かなかったガキへの怒りを抱いていた。
(この俺が抱いてやるって言ったのに。頭の悪そうなブスガキが)
胸の奥で憎しみがグツグツと煮えたぎり、ペンダントが熱くなるのを感じる。石は俺の感情に呼応するように熱を持ったが、その熱が妙に心地いい陶酔感をもたらした。
(趣味が悪いだと? このペンダントの素晴らしさが分かってないくせに。お前なんて呪われちまえばいい。お前みたいなガキ、死ぬより苦しい思いを味わえばいい)
俺はポケットの中のペンダントを握り締め、心の中で彼女を呪う。
その日から緋一は周囲に暴言を吐く男になり、俺の望みは半分以上叶った。
だがその頃から、光輝が疑う目で俺や緋一を見るのが気になった。
あいつは神社の息子だというし、もしかしたら何か特殊な力があるかもしれない。
『見透かされているかも』と思うと、異様な焦りが俺を襲った。
(誰にも邪魔させない。お前にも痛い目に遭ってもらうぞ)
その日から俺は光輝に向かって『呪われろ』と心の中で念じる日々を送った。
願いが叶ったのか、光輝は一時体調不良で会社を休んでいたが、そのうちスッキリとした顔で復帰した。
俺の仕事の調子はよく、幸運な出来事も舞い込んだ。
一方で緋一はかつての人気はどこかへ、鼻つまみ者になろうとしている。給湯室であいつを絶賛していた女性社員も、『最近の猟沢さん、ないわー』と嘆息していた。
六月末になって、光輝が忌引きで休んだ。光輝を呪うつもりでいたが、あいつの親族が死んで精神的ダメージを負うならそれでもいい。なんなら、光輝の周りにいる奴を全員殺して、あいつを孤独と絶望に叩き込んで自殺に追いやってもいい。
光輝が休みから復帰した頃、俺は『お疲れさん』と奴に声を掛けて飲みに誘った。
亡くしたのは兄貴らしく、消沈している光輝を潰すなら今だと思った。
俺は落ち込んだ光輝に『幸運になるお守りだから、気持ちだけでも持っておけって』とペンダントを渡した。同時に命令した時は絶対服従し、ペンダントをつけている事も、俺に命じられた事も忘れるよう言い聞かせた。
――これで、いつでも邪魔者を消せる。
安堵したものの、もう一人心に引っ掛かっている人物がいた。
――羽根谷千秋。
あのガキはペンダントの力が効かなかったし、妙に勘が鋭いところがあるから、口封じをしなければ。



