「跪け! 愚民共!」
凪さんは冷蔵庫から高級そうなサシの入ったステーキ肉を出し、私たちに掲げる。
いつもなら「わーっ!」と拍手していただろうけど、大きなショックを受けた私たちは心身共に疲れ切り、なんと言えばいいか分からずぼんやりしている。
「……なんだ、反応が悪いね」
凪さんはつまらなさそうに言い、キッチンで料理の支度をし、私たちも指示された通りにする。不思議な事に、手を動かしているとゴチャゴチャしていた心が落ち着いてきた。
「ジッとしていると、余計に気持ちが負のスパイラルに陥るんだよ。落ち込んだ時は同じ場所に留まらず、立って動くに限る。……ところで、光輝は自分が犯人だと思っているみたいだけど、千秋は彼を警察に突き出す?」
凪さんに尋ねられ、私はギョッとして否定する。
「そんな事しませんよ! だって光輝さんの意志でやった訳じゃないですし」
唇を尖らせて言うと、クスッと笑った緋一さんが光輝さんの背中を叩いた。
「千秋ちゃん、いい子じゃないか」
「……そうですけど……」
緋一さんは、パッとしない表情の光輝さんの背中をもう一度叩く。
「俺もこれからも光輝の味方でい続けるよ。迷いがあるなら相談してほしい」
「……ありがとうございます」
力なくお礼を言った光輝さんに、凪さんが明るく言う。
「神野くんも目を覚ますと思うから、一緒に肉を食べて話を聞こうじゃないか」
「えっ? 彼の分も用意してるんですか?」
私はそう尋ねつつ、キッチン台の上にあるお肉の枚数を数え、並べられているプレートも確認する。確かに彼女は五人分の食事の用意をしていた。
「仲間はずれにしたら可哀想じゃん。そのうち、肉の匂いに耐えかねて起きてくるよ」
「ちょ……っ、ジュニパーとラベンダーは?」
おまじないをしたはずなのに、お肉の匂いで目覚めるなんてあまりに大雑把だ。
「優しい植物性の匂いより、肉の焼ける匂いのほうが空腹に効くでしょ。食欲は生命エネルギーにも直結してるし、そっちのほうが手っ取り早い」
「もぉ……。せっかく神秘的な光景を目にして『凄いな』って思ってたのに」
ガクリと項垂れた私を見て、凪さんはカラカラと笑う。
「一番大切なのは、人の『生きたい』っていう欲だ。良くない〝欲〟もあるけど、生きているから欲は生まれ続ける。興味深いじゃないか」
「凪さんにかかったら、なんでも〝面白い〟になっちゃうの、堪ったもんじゃないなぁ」
私がぼやくように言うと、彼女は明るく笑った。
「何事も悲観して捉えるより、楽しんだもの勝ちだよ」
そうしている間にコトコト煮ていた人参のグラッセができあがり、添え物をプレートに盛っていると、凪さんは常温にしたお肉に塩胡椒をしてステーキ肉を焼いていく。
「……美味しそう」
疲れて落ち込んでいたはずなのに、ジュウジュウと音を立てて焼けているお肉を見ると、空腹を感じる。
「霊体になると飲食は必要なくなるけど、『食べたい』と思う気持ちがあるなら、まだまだ元気な証拠だから安心していいよ」
「食欲には自信があります」
グッと拳を握って言うと、彼女はニカッと笑った。
やがてダイニングテーブルの上にランチョンマットが敷かれ、その上にステーキプレートとご飯、お味噌汁が並ぶ。
凪さんはステーキプレートを片手に、神野さんの側に歩み寄った。
「ほーら、肉だよ。狸寝入りはいいから、一緒に食事をするよ」
「えっ? 起きてたの?」
私が声を上げると、顔の前にステーキを近づけられた神野さんは、決まり悪そうに目を開きゆっくり起き上がる。まだ顔色が悪いながらも、倒れた時よりずっと生命力を回復させた神野さんは、私たちを見て気まずそうな顔をし、俯いて視線を逸らす。
「ほら、熱いうちに食べちゃうよ。あと、食べている時は暗い話はしない事」
肉の出資者に言われ、私たちは頷く。そのあと私たちはダイニングテーブルにつき、微妙な気持ちのまま美味しいお肉を食べ始めた。
お腹が満たされると気持ちにもゆとりができた。他の三人も同じようで、先ほどより和らいだ顔つきをしている。食後のコーヒーが出されたあと、凪さんが切りだした。
「じゃあ話してもらおうか。神野くんはあのままなら死んでいた。命の恩人の私が質問するんだから、すべて答えてくれるよね?」
圧の強い笑みを向けられ、神野さんは「はい……」と頷く。
「言いづらいだろうけど全部言ってしまおう。沢山の人を傷つけた君ができる最初の償いは、真実を打ち明ける事だ。時系列に何があったのか教えてくれる?」
凪さんに促され、神野さんは俯いたまま話し始めた。
**
凪さんは冷蔵庫から高級そうなサシの入ったステーキ肉を出し、私たちに掲げる。
いつもなら「わーっ!」と拍手していただろうけど、大きなショックを受けた私たちは心身共に疲れ切り、なんと言えばいいか分からずぼんやりしている。
「……なんだ、反応が悪いね」
凪さんはつまらなさそうに言い、キッチンで料理の支度をし、私たちも指示された通りにする。不思議な事に、手を動かしているとゴチャゴチャしていた心が落ち着いてきた。
「ジッとしていると、余計に気持ちが負のスパイラルに陥るんだよ。落ち込んだ時は同じ場所に留まらず、立って動くに限る。……ところで、光輝は自分が犯人だと思っているみたいだけど、千秋は彼を警察に突き出す?」
凪さんに尋ねられ、私はギョッとして否定する。
「そんな事しませんよ! だって光輝さんの意志でやった訳じゃないですし」
唇を尖らせて言うと、クスッと笑った緋一さんが光輝さんの背中を叩いた。
「千秋ちゃん、いい子じゃないか」
「……そうですけど……」
緋一さんは、パッとしない表情の光輝さんの背中をもう一度叩く。
「俺もこれからも光輝の味方でい続けるよ。迷いがあるなら相談してほしい」
「……ありがとうございます」
力なくお礼を言った光輝さんに、凪さんが明るく言う。
「神野くんも目を覚ますと思うから、一緒に肉を食べて話を聞こうじゃないか」
「えっ? 彼の分も用意してるんですか?」
私はそう尋ねつつ、キッチン台の上にあるお肉の枚数を数え、並べられているプレートも確認する。確かに彼女は五人分の食事の用意をしていた。
「仲間はずれにしたら可哀想じゃん。そのうち、肉の匂いに耐えかねて起きてくるよ」
「ちょ……っ、ジュニパーとラベンダーは?」
おまじないをしたはずなのに、お肉の匂いで目覚めるなんてあまりに大雑把だ。
「優しい植物性の匂いより、肉の焼ける匂いのほうが空腹に効くでしょ。食欲は生命エネルギーにも直結してるし、そっちのほうが手っ取り早い」
「もぉ……。せっかく神秘的な光景を目にして『凄いな』って思ってたのに」
ガクリと項垂れた私を見て、凪さんはカラカラと笑う。
「一番大切なのは、人の『生きたい』っていう欲だ。良くない〝欲〟もあるけど、生きているから欲は生まれ続ける。興味深いじゃないか」
「凪さんにかかったら、なんでも〝面白い〟になっちゃうの、堪ったもんじゃないなぁ」
私がぼやくように言うと、彼女は明るく笑った。
「何事も悲観して捉えるより、楽しんだもの勝ちだよ」
そうしている間にコトコト煮ていた人参のグラッセができあがり、添え物をプレートに盛っていると、凪さんは常温にしたお肉に塩胡椒をしてステーキ肉を焼いていく。
「……美味しそう」
疲れて落ち込んでいたはずなのに、ジュウジュウと音を立てて焼けているお肉を見ると、空腹を感じる。
「霊体になると飲食は必要なくなるけど、『食べたい』と思う気持ちがあるなら、まだまだ元気な証拠だから安心していいよ」
「食欲には自信があります」
グッと拳を握って言うと、彼女はニカッと笑った。
やがてダイニングテーブルの上にランチョンマットが敷かれ、その上にステーキプレートとご飯、お味噌汁が並ぶ。
凪さんはステーキプレートを片手に、神野さんの側に歩み寄った。
「ほーら、肉だよ。狸寝入りはいいから、一緒に食事をするよ」
「えっ? 起きてたの?」
私が声を上げると、顔の前にステーキを近づけられた神野さんは、決まり悪そうに目を開きゆっくり起き上がる。まだ顔色が悪いながらも、倒れた時よりずっと生命力を回復させた神野さんは、私たちを見て気まずそうな顔をし、俯いて視線を逸らす。
「ほら、熱いうちに食べちゃうよ。あと、食べている時は暗い話はしない事」
肉の出資者に言われ、私たちは頷く。そのあと私たちはダイニングテーブルにつき、微妙な気持ちのまま美味しいお肉を食べ始めた。
お腹が満たされると気持ちにもゆとりができた。他の三人も同じようで、先ほどより和らいだ顔つきをしている。食後のコーヒーが出されたあと、凪さんが切りだした。
「じゃあ話してもらおうか。神野くんはあのままなら死んでいた。命の恩人の私が質問するんだから、すべて答えてくれるよね?」
圧の強い笑みを向けられ、神野さんは「はい……」と頷く。
「言いづらいだろうけど全部言ってしまおう。沢山の人を傷つけた君ができる最初の償いは、真実を打ち明ける事だ。時系列に何があったのか教えてくれる?」
凪さんに促され、神野さんは俯いたまま話し始めた。
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