光輝さんが怪訝そうな表情をすると、緋一さんは首を傾げながら言う。
「〝それ〟に追われてるのって、二人で行動している時だったんだよな? お守りの効果が完璧なら、他の迷い人が寄って来ないのは頷ける。それでも近づいてくるのは、光輝に用事があるからなんじゃないか?」
「化け物の知り合いなんていませんよ」
光輝さんは驚いたように言い、意見を求めるように凪さんを見る。
けれど彼女はいつもの飄々とした態度はどこかへ、いたく真面目な顔で答えた。
「化け物に見えても、元は人なんだよ。生への執着のある迷い人は、生き霊を食べようとしたり、ネガティブな人に憑いて力を増そうとする。一方で自我を保っている人も大勢いる。光輝の目には、普通の人と変わりなく見える死者だって見えるんだろう?」
そう言われ、彼は冷たい事を言ってしまったと思ったのか、少し赤面する。
「迷い人は想いによって姿を変える。憎悪や復讐心に囚われている者は怖ろしい外見になりやすいし、守りたい人の側にいる人たちは、生前と変わらない姿で見守っている」
「……なら、〝あれ〟は負の感情に囚われているんじゃ……」
「自分の目で確かめておいで」
凪さんは静かに、そっと彼を突き放す。
言ったあと彼女は私たちから目を逸らし、それ以上のヒントをくれないと悟った。
「……行きましょう、光輝さん」
「でも……」
「私は大丈夫です。凪さんのお守りを信じているし、確かめたほうがいい事があるのに、ジッとしてなんていられません」
私の言葉を聞き、緋一さんはトンと光輝さんの背中を叩いた。
「俺は視えないけど、時間稼ぎくらいはできるかもしれない。指示を出してくれ」
「……分かりました」
凪さんは立たず、私たちは三人だけで店に繋がるドアに向かう。
「神野さんを宜しくお願いします」
緋一さんの言葉に、凪さんは片手を挙げて応えた。
店を出る時、珍しくカクは何も言わなかった。
私たちはとても奇妙な心地に陥ったまま、夜を迎えた新宿三丁目に出る。
――いた。
雑踏の中、店の割と近くで佇んでいる迷い人がいる。私たちは緊張した面持ちで迷い人に対峙したけれど、〝その人〟は近づいてこず、様子を見るようにジッとこちらを窺っていた。やがて〝その人〟はゆっくりと進み、私たちを振り向く。
「ついてこいって言ってるみたい」
「……そう見えるな」
覚悟を決めた私たちは、〝その人〟のあとをついて歩く事にした。
その迷い人はゆっくりした足取りで進み、ときおり私たちを振り向く。やがて〝その人〟は新宿三丁目駅に着き、地下鉄に乗った。
(……どこへ行くんだろう)
今までは怖いから、迷い人をじっくり観察する心の余裕がなかった。
改めて見ると、〝その人〟はとても大きく、生前は背の高い人だったんだろうか。けど人の形をしているというより、不自然に左右に張り出ている箇所もあるし、光輝さんが『化け物』と言った通り、考えつかない姿をしているのだろう。
やがて二十分弱経ち、〝その人〟が下りたのは神保町駅だ。
「この辺、光輝の家がある場所だよな」
緋一さんが言い、私は「そうなんですか?」と彼を見る。
「でも、最近は外壁工事が続いていて煩わしいので、不本意ながら八丁堀の実家から出勤しているんです」
光輝さんがそう言うと、緋一さんは足を止めてまじまじと彼を見た。
「どうかしましたか?」
光輝さんに不思議そうに尋ねられ、緋一さんは強張った表情で言う。
「俺、先日、会社帰りに本屋に行こうと思ってこの辺に来たんだよ。……その途中でお前のマンションの側を通ったけど、…………外壁工事なんてしてなかったぞ?」
――え……。
緋一さんの言葉を聞いた瞬間、ゾアッと全身に悪寒が駆け抜けた。
「〝それ〟に追われてるのって、二人で行動している時だったんだよな? お守りの効果が完璧なら、他の迷い人が寄って来ないのは頷ける。それでも近づいてくるのは、光輝に用事があるからなんじゃないか?」
「化け物の知り合いなんていませんよ」
光輝さんは驚いたように言い、意見を求めるように凪さんを見る。
けれど彼女はいつもの飄々とした態度はどこかへ、いたく真面目な顔で答えた。
「化け物に見えても、元は人なんだよ。生への執着のある迷い人は、生き霊を食べようとしたり、ネガティブな人に憑いて力を増そうとする。一方で自我を保っている人も大勢いる。光輝の目には、普通の人と変わりなく見える死者だって見えるんだろう?」
そう言われ、彼は冷たい事を言ってしまったと思ったのか、少し赤面する。
「迷い人は想いによって姿を変える。憎悪や復讐心に囚われている者は怖ろしい外見になりやすいし、守りたい人の側にいる人たちは、生前と変わらない姿で見守っている」
「……なら、〝あれ〟は負の感情に囚われているんじゃ……」
「自分の目で確かめておいで」
凪さんは静かに、そっと彼を突き放す。
言ったあと彼女は私たちから目を逸らし、それ以上のヒントをくれないと悟った。
「……行きましょう、光輝さん」
「でも……」
「私は大丈夫です。凪さんのお守りを信じているし、確かめたほうがいい事があるのに、ジッとしてなんていられません」
私の言葉を聞き、緋一さんはトンと光輝さんの背中を叩いた。
「俺は視えないけど、時間稼ぎくらいはできるかもしれない。指示を出してくれ」
「……分かりました」
凪さんは立たず、私たちは三人だけで店に繋がるドアに向かう。
「神野さんを宜しくお願いします」
緋一さんの言葉に、凪さんは片手を挙げて応えた。
店を出る時、珍しくカクは何も言わなかった。
私たちはとても奇妙な心地に陥ったまま、夜を迎えた新宿三丁目に出る。
――いた。
雑踏の中、店の割と近くで佇んでいる迷い人がいる。私たちは緊張した面持ちで迷い人に対峙したけれど、〝その人〟は近づいてこず、様子を見るようにジッとこちらを窺っていた。やがて〝その人〟はゆっくりと進み、私たちを振り向く。
「ついてこいって言ってるみたい」
「……そう見えるな」
覚悟を決めた私たちは、〝その人〟のあとをついて歩く事にした。
その迷い人はゆっくりした足取りで進み、ときおり私たちを振り向く。やがて〝その人〟は新宿三丁目駅に着き、地下鉄に乗った。
(……どこへ行くんだろう)
今までは怖いから、迷い人をじっくり観察する心の余裕がなかった。
改めて見ると、〝その人〟はとても大きく、生前は背の高い人だったんだろうか。けど人の形をしているというより、不自然に左右に張り出ている箇所もあるし、光輝さんが『化け物』と言った通り、考えつかない姿をしているのだろう。
やがて二十分弱経ち、〝その人〟が下りたのは神保町駅だ。
「この辺、光輝の家がある場所だよな」
緋一さんが言い、私は「そうなんですか?」と彼を見る。
「でも、最近は外壁工事が続いていて煩わしいので、不本意ながら八丁堀の実家から出勤しているんです」
光輝さんがそう言うと、緋一さんは足を止めてまじまじと彼を見た。
「どうかしましたか?」
光輝さんに不思議そうに尋ねられ、緋一さんは強張った表情で言う。
「俺、先日、会社帰りに本屋に行こうと思ってこの辺に来たんだよ。……その途中でお前のマンションの側を通ったけど、…………外壁工事なんてしてなかったぞ?」
――え……。
緋一さんの言葉を聞いた瞬間、ゾアッと全身に悪寒が駆け抜けた。



