「光輝!? いきなりどうしたんだ! うぅ……っ」
焦った緋一さんが抵抗するも、光輝さんは遠慮のない力で彼の首を絞める。
「光輝さん! やめて! どうしたの!?」
けれど彼は私の声がまるで聞こえていないように、緋一さんの首を絞め上げる。
その顔は無表情で、目にもなんの感情も宿っていない。
彼の行動も異常だけれど、その表情がとても怖かった。
(こうなったら……っ!)
私はスッと息を吸い、助けを求める。
「アメノカク! 助けて! お願い!」
神様の名前を呼んだ瞬間、一瞬光輝さんの体から眩い光が放たれ、私と神野さんは悲鳴を上げ、手で目元を覆った。
《はぁ……、やれやれ。今の光輝に降りるのはエネルギーが要るんだけどね》
鹿頭のカクはそう言い、パッと緋一さんを離す。
「光輝……?」
緋一さんは床の上に座り込んだまま、恐怖と驚きが混じった顔で彼を見上げる。
彼がそんな反応をしているのはカクが見えているからじゃなく、どうして光輝さんが首を絞めてきたか、心底驚いているからだろう。
緋一さんはカクが登場しても反応していないのに、神野さんは両手で目元を覆ってうめいている。
多分、カクが凄まじいエネルギーを発した瞬間、霊体である私と、何かに取り憑かれている神野さんだけ、眩しさを感じたのだと思う。
《こいつ、ちょっと弱体化させておくね。曲がりなりにも僕が降りている〝器〟に、舐めた真似をしてくれたから》
カクはいつもの口調だけど、若干の怒りを滲ませて神野さんに掌を向ける。
そして、力ある言葉で命令した。
《伏せよ》
「あっ! ――――うぅうううっ、う……っ、うぅうーっ!!」
神様に命令された神野さんは、苦悶の表情を浮かべてその場に膝をつく。
そしてタラタラと冷や汗を流しながら、文字通り光輝さんに向かって土下座した。
「……一体何が起こってるんだ……」
その様子を見て、緋一さんが畏れた表情で呟く。
《我が眷属に害を為す事能わぬ》
カクがさらに強く否定すると、神野さんは土下座した体勢のまま気を失ったのか、力なく横たわってしまった。
「……っ、はぁ……っ!」
カクが抜けた瞬間、光輝さんは長い間息を止めていたかのように溜め息をつく。
額に汗を浮かばせた彼は、呆然として周囲の状況を確認する。
「……俺、…………どうしたんだ……?」
戸惑った表情をした光輝さんは、きっと神野さんに操られた時の事を覚えていないんだろう。
「神野さんがきっと呪具で光輝さんを操ったんだと思います! カクが現れて彼を弱らせてくれたから、今のうちに祓ってください!」
神野さんの首元には、メンズ用の太めのチェーンが掛かっている。
カクが降りた事で少しマシになったものの、この部屋に充溢している邪悪な気配も、ペンダントを破壊すれば浄化されるんじゃないだろうか。
光輝さんは混乱したままだったけれど、しっかりと頷いた。
「……やります」
彼が一言告げただけで緋一さんは意図を汲み、壁際に下がった。
光輝さんはスゥッと深呼吸をしてから、猫騙しのようにパンッと一つ大きく手を打つ。
その瞬間、淀んでいた空気の中に、一本の清涼な道が通ったように感じられた。
光輝さんは神野さんを見据え、神経を集中させて祝詞を唱え始めた。
「掛けまくも畏き伊邪那岐大神、筑紫の日向の橘小戸の阿波岐原に……」
彼が祝詞を唱え始めると、気絶している神野さんの体がビクビクッと痙攣する。
緋一さんは心配そうな顔をしたけれど、光輝さんは集中しきっている。
「……祓え給え清め給えと白す事を聞こえし食せと……、恐み恐みも白す……」
カクを迎える準備ができた光輝さんが目を開くと、その目は金色に似た不思議な色に変わっていた。
(やっぱり綺麗……)
私はうっとりと光輝さんに見入り、緋一さんも初めて目の当たりにする光景に目を奪われている。
「ぐぁああぁあ……っ」
床に伏せた神野さんは、光輝さんから発せられる神々しい気に当てられ、手足をバタつかせて苦しみ始める。
光輝さんが奉納の舞いを始めると、空を切り裂くかのような手の動き、力強い足踏みの一つ一つの動作により、淀んでいた空気がどんどん浄化されていくのが分かる。
私も緋一さんも、汗を流しながら一心不乱に神様のために舞う光輝さんのあまりの美しさに、心を奪われていた。
やがて――。
「…………寄る辺なき者よ、在るべき所へ帰れ」
光輝さんは苦しみ藻掻いて脱力している神野さんを見据えると、彼だけに視える乖離線に沿って、両手に持った見えない刀を振り下ろした。
途端――、パァッと淀んでいた空気が一気に晴れる。
「…………あぁぁあああぁぁ…………」
神野さんは声を絞り出すようにうめき、床の上で弛緩した。
焦った緋一さんが抵抗するも、光輝さんは遠慮のない力で彼の首を絞める。
「光輝さん! やめて! どうしたの!?」
けれど彼は私の声がまるで聞こえていないように、緋一さんの首を絞め上げる。
その顔は無表情で、目にもなんの感情も宿っていない。
彼の行動も異常だけれど、その表情がとても怖かった。
(こうなったら……っ!)
私はスッと息を吸い、助けを求める。
「アメノカク! 助けて! お願い!」
神様の名前を呼んだ瞬間、一瞬光輝さんの体から眩い光が放たれ、私と神野さんは悲鳴を上げ、手で目元を覆った。
《はぁ……、やれやれ。今の光輝に降りるのはエネルギーが要るんだけどね》
鹿頭のカクはそう言い、パッと緋一さんを離す。
「光輝……?」
緋一さんは床の上に座り込んだまま、恐怖と驚きが混じった顔で彼を見上げる。
彼がそんな反応をしているのはカクが見えているからじゃなく、どうして光輝さんが首を絞めてきたか、心底驚いているからだろう。
緋一さんはカクが登場しても反応していないのに、神野さんは両手で目元を覆ってうめいている。
多分、カクが凄まじいエネルギーを発した瞬間、霊体である私と、何かに取り憑かれている神野さんだけ、眩しさを感じたのだと思う。
《こいつ、ちょっと弱体化させておくね。曲がりなりにも僕が降りている〝器〟に、舐めた真似をしてくれたから》
カクはいつもの口調だけど、若干の怒りを滲ませて神野さんに掌を向ける。
そして、力ある言葉で命令した。
《伏せよ》
「あっ! ――――うぅうううっ、う……っ、うぅうーっ!!」
神様に命令された神野さんは、苦悶の表情を浮かべてその場に膝をつく。
そしてタラタラと冷や汗を流しながら、文字通り光輝さんに向かって土下座した。
「……一体何が起こってるんだ……」
その様子を見て、緋一さんが畏れた表情で呟く。
《我が眷属に害を為す事能わぬ》
カクがさらに強く否定すると、神野さんは土下座した体勢のまま気を失ったのか、力なく横たわってしまった。
「……っ、はぁ……っ!」
カクが抜けた瞬間、光輝さんは長い間息を止めていたかのように溜め息をつく。
額に汗を浮かばせた彼は、呆然として周囲の状況を確認する。
「……俺、…………どうしたんだ……?」
戸惑った表情をした光輝さんは、きっと神野さんに操られた時の事を覚えていないんだろう。
「神野さんがきっと呪具で光輝さんを操ったんだと思います! カクが現れて彼を弱らせてくれたから、今のうちに祓ってください!」
神野さんの首元には、メンズ用の太めのチェーンが掛かっている。
カクが降りた事で少しマシになったものの、この部屋に充溢している邪悪な気配も、ペンダントを破壊すれば浄化されるんじゃないだろうか。
光輝さんは混乱したままだったけれど、しっかりと頷いた。
「……やります」
彼が一言告げただけで緋一さんは意図を汲み、壁際に下がった。
光輝さんはスゥッと深呼吸をしてから、猫騙しのようにパンッと一つ大きく手を打つ。
その瞬間、淀んでいた空気の中に、一本の清涼な道が通ったように感じられた。
光輝さんは神野さんを見据え、神経を集中させて祝詞を唱え始めた。
「掛けまくも畏き伊邪那岐大神、筑紫の日向の橘小戸の阿波岐原に……」
彼が祝詞を唱え始めると、気絶している神野さんの体がビクビクッと痙攣する。
緋一さんは心配そうな顔をしたけれど、光輝さんは集中しきっている。
「……祓え給え清め給えと白す事を聞こえし食せと……、恐み恐みも白す……」
カクを迎える準備ができた光輝さんが目を開くと、その目は金色に似た不思議な色に変わっていた。
(やっぱり綺麗……)
私はうっとりと光輝さんに見入り、緋一さんも初めて目の当たりにする光景に目を奪われている。
「ぐぁああぁあ……っ」
床に伏せた神野さんは、光輝さんから発せられる神々しい気に当てられ、手足をバタつかせて苦しみ始める。
光輝さんが奉納の舞いを始めると、空を切り裂くかのような手の動き、力強い足踏みの一つ一つの動作により、淀んでいた空気がどんどん浄化されていくのが分かる。
私も緋一さんも、汗を流しながら一心不乱に神様のために舞う光輝さんのあまりの美しさに、心を奪われていた。
やがて――。
「…………寄る辺なき者よ、在るべき所へ帰れ」
光輝さんは苦しみ藻掻いて脱力している神野さんを見据えると、彼だけに視える乖離線に沿って、両手に持った見えない刀を振り下ろした。
途端――、パァッと淀んでいた空気が一気に晴れる。
「…………あぁぁあああぁぁ…………」
神野さんは声を絞り出すようにうめき、床の上で弛緩した。



