「占い師って年齢不詳で美人な人が多いでしょ? そういうもんだと思ってて。世の中、全部知ろうと思ったら面白くないよ」
「占い師じゃないでしょ~」
誤魔化されてブスッとふてくされると、彼女はカラカラと笑う。
「ま、名前をつけて納得できる事に、大して深い意味なんてないんだよ。ヒトが『名前をつけておけば覚えやすい、認識しやすい』と思って名付けただけ。名前はアイデンティティにもなるけど、私の場合、そういう問題でもないからね」
凪さんはまた煙に巻くような抽象的な事を言い、誤魔化してしまう。
「……言いたくないならいいんですけど……」
溜め息をついてお茶を飲むと、彼女はパンと手を鳴らして言った。
「さて、今日のうちに片をつけるんじゃないの? 十月だし、陽の落ちる時間が早くなってる。〝彼ら〟は夜のほうが活発になるよ」
そう言われ、私は電車の中で迫って来た黒い靄を思い出して背筋を震わせた。
「いっ、行きましょう! 今日こそ私は蘇る!」
慌てて立ちあがった時、忘れていたタイミングで大きな声がした。
「お客様のお帰り~!」
「うわっ!」
カクの声を聞き、私たちは三人ともビクッとして声を漏らす。
「このぉ……、鹿頭……」
私がカクを睨み付けると、奴は愉快そうな顔をして笑う。
「油断していたほうが悪いもんね~」
そんなカクを見て、緋一さんは呆然としている。
「…………鹿の頭が…………喋った…………」
そうなりますよね。
「……あれが〝アメノカク〟?」
彼はノロノロと光輝さんに顔を向け、確認してくる。
「そうだよ~! 宜しくね~!」
けれど光輝さんが答える前に、カクが底抜けに明るい声で返事をした。
緋一さんはしばらく沈黙していたけれど、「……はぁ」と溜め息をついたあと気を取り直したようだった。
「まずは千秋ちゃんを助けてからにしよう」
「はい!」
彼はペンダントを首につけ、凪さんに「お世話になりました」と頭を下げる。
光輝さんと私も彼女にお礼を言い、カクに「特等席で見守ってるからね~」と言われて店を出た。
心強いんだけど……、なんだか腹が立つ。
**
二人はまだ神野さんに目を付けられる前、彼の家にお邪魔した事があるらしい。
緋一さんは入社したての頃で、当時は神野さんも『見所のある後輩を可愛がってやろう』という気持ちで飲みに誘っていたそうだ。
光輝さんも新人の頃は派閥的なものに属しておらず、神野さんとしては自分を慕う後輩として育てたかったのかもしれない。
けれど彼の教育係は緋一さんが担い、自然と彼らは仲良くなっていった。
そんな話を聞きながら、私たちはタクシーに乗るべく伊勢丹前に向かった。
(……それにしても、こうやって話を聞くと、神野さんって面倒臭い人だな)
曲がりなりにも二人は神野さんの後輩だから、悪く言うのは良くないかもしれない。
でも話を聞いていると神野さんは自分の手下になりそうな人を求め、敵対しそうになったらライバル視して嫌がらせをしている。正直、三十歳と思えないぐらい子供っぽい。
(人間、歳をとったからと言って〝いい人〟になるわけじゃないんだな)
なかなか絶望的な現実だけれど、高齢になるほど善人が増えるなら、世の中はもっと変わっているだろう。
若いから諍いを起こすわけでもないし、結局はその人の人間性なのだ。
(だからといって、彼のした事を正当化できるわけじゃないけど)
ようやくタクシーに乗る順番がきて、私は緋一さんと光輝さんの間、後部座席の中央に乗った。
「神野さんの家に行って、千秋ちゃんが〝いた〟らどうします?」
「心を鬼にして通報するしかないだろ」
二人はそんな会話をし、私も「だよねぇ……」と深く頷く。
「占い師じゃないでしょ~」
誤魔化されてブスッとふてくされると、彼女はカラカラと笑う。
「ま、名前をつけて納得できる事に、大して深い意味なんてないんだよ。ヒトが『名前をつけておけば覚えやすい、認識しやすい』と思って名付けただけ。名前はアイデンティティにもなるけど、私の場合、そういう問題でもないからね」
凪さんはまた煙に巻くような抽象的な事を言い、誤魔化してしまう。
「……言いたくないならいいんですけど……」
溜め息をついてお茶を飲むと、彼女はパンと手を鳴らして言った。
「さて、今日のうちに片をつけるんじゃないの? 十月だし、陽の落ちる時間が早くなってる。〝彼ら〟は夜のほうが活発になるよ」
そう言われ、私は電車の中で迫って来た黒い靄を思い出して背筋を震わせた。
「いっ、行きましょう! 今日こそ私は蘇る!」
慌てて立ちあがった時、忘れていたタイミングで大きな声がした。
「お客様のお帰り~!」
「うわっ!」
カクの声を聞き、私たちは三人ともビクッとして声を漏らす。
「このぉ……、鹿頭……」
私がカクを睨み付けると、奴は愉快そうな顔をして笑う。
「油断していたほうが悪いもんね~」
そんなカクを見て、緋一さんは呆然としている。
「…………鹿の頭が…………喋った…………」
そうなりますよね。
「……あれが〝アメノカク〟?」
彼はノロノロと光輝さんに顔を向け、確認してくる。
「そうだよ~! 宜しくね~!」
けれど光輝さんが答える前に、カクが底抜けに明るい声で返事をした。
緋一さんはしばらく沈黙していたけれど、「……はぁ」と溜め息をついたあと気を取り直したようだった。
「まずは千秋ちゃんを助けてからにしよう」
「はい!」
彼はペンダントを首につけ、凪さんに「お世話になりました」と頭を下げる。
光輝さんと私も彼女にお礼を言い、カクに「特等席で見守ってるからね~」と言われて店を出た。
心強いんだけど……、なんだか腹が立つ。
**
二人はまだ神野さんに目を付けられる前、彼の家にお邪魔した事があるらしい。
緋一さんは入社したての頃で、当時は神野さんも『見所のある後輩を可愛がってやろう』という気持ちで飲みに誘っていたそうだ。
光輝さんも新人の頃は派閥的なものに属しておらず、神野さんとしては自分を慕う後輩として育てたかったのかもしれない。
けれど彼の教育係は緋一さんが担い、自然と彼らは仲良くなっていった。
そんな話を聞きながら、私たちはタクシーに乗るべく伊勢丹前に向かった。
(……それにしても、こうやって話を聞くと、神野さんって面倒臭い人だな)
曲がりなりにも二人は神野さんの後輩だから、悪く言うのは良くないかもしれない。
でも話を聞いていると神野さんは自分の手下になりそうな人を求め、敵対しそうになったらライバル視して嫌がらせをしている。正直、三十歳と思えないぐらい子供っぽい。
(人間、歳をとったからと言って〝いい人〟になるわけじゃないんだな)
なかなか絶望的な現実だけれど、高齢になるほど善人が増えるなら、世の中はもっと変わっているだろう。
若いから諍いを起こすわけでもないし、結局はその人の人間性なのだ。
(だからといって、彼のした事を正当化できるわけじゃないけど)
ようやくタクシーに乗る順番がきて、私は緋一さんと光輝さんの間、後部座席の中央に乗った。
「神野さんの家に行って、千秋ちゃんが〝いた〟らどうします?」
「心を鬼にして通報するしかないだろ」
二人はそんな会話をし、私も「だよねぇ……」と深く頷く。



