「ナンパしたのは事実だ。あの時は珍しく神野さんに飲みに誘われて、妙に酔っぱらってハイになった勢いで声を掛けてしまった。その勢いで付き合ったけど、……正直、店を出たあとは、どうしてこの子が隣にいるのか分からなくなった。それに……」
緋一さんが言葉を途切れさせると、柚良は彼の心情を察したように言う。
「申し訳ないですが、私は今、あなたを何とも思っていません。悪いモノに憑かれて好きでもない人と付き合い、我に返った状態です。私の事は気にしないでください」
柚良がキッパリと言い切ったからか、緋一さんは「ありがとう」と礼を言って続けた。
「……俺も柚良ちゃんを特に好きな訳じゃなかった。でも神野さんに『あの子と付き合ったらどうだ?』と言われた時は、最高の相手と思えたんだ。……でも、いざ付き合ったあとは、何とも思えなくなった。……でも、柚良ちゃんと付き合っている様子を沙織に見せつけたくて、……意地で付き合っていたんだと思う」
言い渋っていた通り、なかなかクズな内容だ。
「『見せつけたかった』って、沙織さんが好きだから気を引きたかったんですか?」
柚良にズバッと言われ、緋一さんは赤面するとモゴモゴと不明瞭な言葉を発する。
沙織さんはそんな彼を見て嬉しそうに微笑み、ポンと彼の肩を叩いた。
「ま、その辺はあとで二人きりになった時に、なんぼでも聞くわ」
「……そうする」
緋一さんは耳まで赤くなってボソッと呟いた。お熱いねぇ……。
光輝さんは紅茶を飲み、話の続きを促す。
「それって神野さんに誘導された訳ですよね? 神野さんは緋一さんをライバル視して嫌っていました。なのに飲みに誘って、しかも面識のない女子大生と付き合えとけしかけるなんて、あまりにおかしすぎます」
「そうだな。俺も神野さんに嫌われている自覚はあった」
緋一さんは混乱したように額を押さえ、苦しげに言う。
「ねぇ、緋一。ちょっといい?」
不意に沙織さんが言い、「さっきから気になっていたんだけど……」と、彼の首から下がっていた革紐を引っ張った。
その先端には細い糸で石が縛られた物がついていたけれど、石には大きなヒビが入っていた。
「あっ!」
私はそのペンダントを見て声を上げる。……が、光輝さん以外の誰にも聞こえない。
「これ、さっき二人を祓った時に聞こえた亀裂音の正体?」
沙織さんが言うと、光輝さんは「恐らく」と頷く。
「柚良の首にもチェーンがあるから、確認するよう言ってください」
私が光輝さんにお願いして確認してもらうと、柚良は胸元から緋一さんとそっくりのペンダントを出して声を上げた。
「やだ! 何これ……。私、こんな趣味悪いのつけない……」
柚良は嫌そうにペンダントを外し、テーブルの上に置く。
緋一さんも同様にし、私を含めた五人は微妙な面持ちでそれを見つめた。
光輝さんは「失礼します」と言ってペンダントを二つ手に取り、顔に近づけてスンッと匂いを嗅ぐ。
「間違いない。匂いは薄くなってるけど、二人に憑いていたモノと同じ悪臭がする」
誰からともなく溜め息をつき、沙織さんが尋ねる。
「これをどこで手に入れたか覚えてる?」
言われた二人は顔を見合わせてから、気味悪そうな表情をして首を横に振る。
「私、知ってる!」
私は手を上げ、自分を認識できない人たちに必死にアピールする。
「そのペンダント、私ももらいかけた! 緋一さんと一緒にいたのが神野さんなら、彼が二人に『幸運になるペンダントだ』って渡したの。いつもの柚良なら、そんな怪しい物を絶対に受け取らないのに、めっちゃ喜んでました。緋一さんも嬉しそうにしていて、私、二人の様子を見てドン引きしてたの」
光輝さんが私の言った事を通訳すると、柚良と緋一さんは顔色を悪くしていた。
「神野さんは私にも渡そうとしたけど、気持ち悪いから断ったの。そうしたら物凄く怖い顔をして、普通じゃない雰囲気だった」
あの時の神野さんは、普通じゃない雰囲気だった。
彼は緋一さんと似た感じの、仕事ができそうな格好いい大人の男性という印象だった。
でも『暗くて陰湿そうな人だな』と直感で感じた私は、本能的に拒絶感を抱いたのだ。
私はイケメン大好きミーハー気質だから、自分でもそんな反応をした事に驚いた。
けれど大好きな祖母からは『直感を大事にしなさい』と言われていたから、『神野さんと関ったら駄目だ』と自分に言い聞かせたのだ。
「……じゃあ、神野さんが黒幕? 彼の所に千秋ちゃんの体がある?」
緋一さんが呟き、全員、犯罪の予感に緊張を滲ませる。
「早く千秋を助けたいです! 行方不明になって一週間経ってるんですよ? 千秋が死んだら私……っ」
切羽詰まった表情で言った柚良は、両手で顔を覆う。
……うん、その気持ちはありがたいけど、まだ死んでないと思うから!
その時、いきなりカクが降りてきた。
緋一さんが言葉を途切れさせると、柚良は彼の心情を察したように言う。
「申し訳ないですが、私は今、あなたを何とも思っていません。悪いモノに憑かれて好きでもない人と付き合い、我に返った状態です。私の事は気にしないでください」
柚良がキッパリと言い切ったからか、緋一さんは「ありがとう」と礼を言って続けた。
「……俺も柚良ちゃんを特に好きな訳じゃなかった。でも神野さんに『あの子と付き合ったらどうだ?』と言われた時は、最高の相手と思えたんだ。……でも、いざ付き合ったあとは、何とも思えなくなった。……でも、柚良ちゃんと付き合っている様子を沙織に見せつけたくて、……意地で付き合っていたんだと思う」
言い渋っていた通り、なかなかクズな内容だ。
「『見せつけたかった』って、沙織さんが好きだから気を引きたかったんですか?」
柚良にズバッと言われ、緋一さんは赤面するとモゴモゴと不明瞭な言葉を発する。
沙織さんはそんな彼を見て嬉しそうに微笑み、ポンと彼の肩を叩いた。
「ま、その辺はあとで二人きりになった時に、なんぼでも聞くわ」
「……そうする」
緋一さんは耳まで赤くなってボソッと呟いた。お熱いねぇ……。
光輝さんは紅茶を飲み、話の続きを促す。
「それって神野さんに誘導された訳ですよね? 神野さんは緋一さんをライバル視して嫌っていました。なのに飲みに誘って、しかも面識のない女子大生と付き合えとけしかけるなんて、あまりにおかしすぎます」
「そうだな。俺も神野さんに嫌われている自覚はあった」
緋一さんは混乱したように額を押さえ、苦しげに言う。
「ねぇ、緋一。ちょっといい?」
不意に沙織さんが言い、「さっきから気になっていたんだけど……」と、彼の首から下がっていた革紐を引っ張った。
その先端には細い糸で石が縛られた物がついていたけれど、石には大きなヒビが入っていた。
「あっ!」
私はそのペンダントを見て声を上げる。……が、光輝さん以外の誰にも聞こえない。
「これ、さっき二人を祓った時に聞こえた亀裂音の正体?」
沙織さんが言うと、光輝さんは「恐らく」と頷く。
「柚良の首にもチェーンがあるから、確認するよう言ってください」
私が光輝さんにお願いして確認してもらうと、柚良は胸元から緋一さんとそっくりのペンダントを出して声を上げた。
「やだ! 何これ……。私、こんな趣味悪いのつけない……」
柚良は嫌そうにペンダントを外し、テーブルの上に置く。
緋一さんも同様にし、私を含めた五人は微妙な面持ちでそれを見つめた。
光輝さんは「失礼します」と言ってペンダントを二つ手に取り、顔に近づけてスンッと匂いを嗅ぐ。
「間違いない。匂いは薄くなってるけど、二人に憑いていたモノと同じ悪臭がする」
誰からともなく溜め息をつき、沙織さんが尋ねる。
「これをどこで手に入れたか覚えてる?」
言われた二人は顔を見合わせてから、気味悪そうな表情をして首を横に振る。
「私、知ってる!」
私は手を上げ、自分を認識できない人たちに必死にアピールする。
「そのペンダント、私ももらいかけた! 緋一さんと一緒にいたのが神野さんなら、彼が二人に『幸運になるペンダントだ』って渡したの。いつもの柚良なら、そんな怪しい物を絶対に受け取らないのに、めっちゃ喜んでました。緋一さんも嬉しそうにしていて、私、二人の様子を見てドン引きしてたの」
光輝さんが私の言った事を通訳すると、柚良と緋一さんは顔色を悪くしていた。
「神野さんは私にも渡そうとしたけど、気持ち悪いから断ったの。そうしたら物凄く怖い顔をして、普通じゃない雰囲気だった」
あの時の神野さんは、普通じゃない雰囲気だった。
彼は緋一さんと似た感じの、仕事ができそうな格好いい大人の男性という印象だった。
でも『暗くて陰湿そうな人だな』と直感で感じた私は、本能的に拒絶感を抱いたのだ。
私はイケメン大好きミーハー気質だから、自分でもそんな反応をした事に驚いた。
けれど大好きな祖母からは『直感を大事にしなさい』と言われていたから、『神野さんと関ったら駄目だ』と自分に言い聞かせたのだ。
「……じゃあ、神野さんが黒幕? 彼の所に千秋ちゃんの体がある?」
緋一さんが呟き、全員、犯罪の予感に緊張を滲ませる。
「早く千秋を助けたいです! 行方不明になって一週間経ってるんですよ? 千秋が死んだら私……っ」
切羽詰まった表情で言った柚良は、両手で顔を覆う。
……うん、その気持ちはありがたいけど、まだ死んでないと思うから!
その時、いきなりカクが降りてきた。



