「緋一!? 緋一!」
「柚良!」
沙織さんは倒れた緋一さんに駆け寄り、私は親友のもとへ行って彼女の顔を覗き込む。
残念ながら私は現世の物を動かす力はなく、倒れた彼女を抱き起こす事もできない。
ままならない体に歯噛みしていると、汗を掻いて息を荒げた光輝さんが膝をつき、私の代わりに柚良を抱き起こした。
顔色を悪くした柚良はぐったりとしていたけれど、やがて小さく呻いて目を開く。
「……どなたですか?」
そう言った柚良の態度から〝いつも〟の彼女に戻ったと悟った私は、ホッと安堵する。
「話しかけてみてください。もっと柚良の反応を見たいです」
彼は小さく頷き、自力で床の上に座り直した柚良に問いかけた。
「俺は羽根谷光輝だけど、先日一緒に『フルール・カナン』に行った事は覚えてる?」
詳細を説明されてはじめて、柚良は「ああ……」と瞠目して頷いた。
「あの時の……。……いや、……でも待ってください。……私、ボーッとしていて……。このところずっと、自分が自分でない感覚があったんです。あの日の事も覚えてはいるんですが、どうしてあんなに攻撃的になったのか分からなくて……。お兄さんには大変失礼な事を言いました。申し訳ございません」
頭を下げた柚良を見て、私は心の底から安堵して涙を流した。
「良かった……!」
光輝さんは私を見て微笑み、柚良に言う。
「今度千秋に会ったら謝ってあげて。君の様子がおかしくなって、一番心配していたのは彼女だから」
「っ、そうだ……、千秋! あの子、まだ見つかってなくて……っ」
その時、緋一さんが溜め息混じりに言った。
「……光輝? ……悪いけど、状況を説明してくれないかな?」
緋一さんも理性を取り戻したようだけれど、酷く混乱している上に体調も悪そうだ。
「キッチンを借りてもいい? お茶を淹れて皆で話さない?」
沙織さんに言われ、彼は「俺がやるよ」と立ちあがろうとしたけれど、彼女に制された。
「本調子じゃないんでしょう? 座って待ってて。あとこれ。干し芋!」
沙織さんが干し芋の入ったビニール袋を手渡すと、緋一さんは一瞬毒気を抜かれた表情をし、クシャッと笑った。
やがて人数分の紅茶が出されたあと、居心地悪そうにしていた柚良はガバッと頭を下げた。
「ごめんなさい! 私、よく分からないけれど、とても迷惑を掛けた気がします」
彼女は今にも泣きそうな顔をしている。
主に被害を受けたのは沙織さんだけど、彼女は事情を知っている上、今の柚良の様子を見て責める気持ちにならなかったようだ。
「柚良ちゃんと呼んでもいい?」
「はい」
彼女は沙織さんに声を掛けられ、恐る恐る顔を上げる。
「これから私と光輝くんは普通ではない話をする。でもそれを信じて、二人とも自分の知っている事を話してほしいの。……元の緋一を取り戻す目的は果たしたけれど、千秋ちゃんの体は見つかっていない。彼女を助けるためにも、皆で力を合わせないとならないの」
私の名前が出て、柚良は不安そうに表情を歪めながらも「はい!」と頷いた。
緋一さんも状況が分かっていないながらも「分かった。協力する」と承諾してくれた。
そのあと、光輝さんと沙織さんは今までどういう経験をしたのか語った。
ついでに、光輝さんは私の兄だと嘘をついた事を柚良に謝った。
二人は凪さんやカクの話を聞いて、にわかに信じられない表情をしていたけれど、自分たちが得体の知れない〝何か〟に支配されていたのは自覚していたからか、神妙な面持ちで聞いていた。
「じゃあ、光輝が俺たちを助けてくれたのか?」
緋一さんに言われ、彼は照れくさそうな表情で首を横に振る。
「俺だけの力じゃありません。凪さんとカクが力を貸してくれ、千秋ちゃんも励ましてくれました。それに沙織さんの協力がなければ、この家にも上がれませんでした」
緋一さんはそう言った光輝さんの背中をトンと叩き、笑いかける。
「でも、ありがとう。神様が力を貸してくれたとしても、実際にお祓いをしたのは光輝だ。自信を持っていいと思う」
続いて柚良もお礼を言う。
「私からもお礼を言います。……本来の自分ではなかったとはいえ、私は千秋に酷い事を言ってしまいました。彼女は心配して忠告してくれていたのに、私は……」
柚良の言葉を聞き、沙織さんがおずおずと尋ねた。
「一つ確認したいんだけど、緋一と柚良ちゃんは好き合っているの?」
それを聞いて二人は顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らす。
最初に答えたのは緋一さんだった。
「柚良!」
沙織さんは倒れた緋一さんに駆け寄り、私は親友のもとへ行って彼女の顔を覗き込む。
残念ながら私は現世の物を動かす力はなく、倒れた彼女を抱き起こす事もできない。
ままならない体に歯噛みしていると、汗を掻いて息を荒げた光輝さんが膝をつき、私の代わりに柚良を抱き起こした。
顔色を悪くした柚良はぐったりとしていたけれど、やがて小さく呻いて目を開く。
「……どなたですか?」
そう言った柚良の態度から〝いつも〟の彼女に戻ったと悟った私は、ホッと安堵する。
「話しかけてみてください。もっと柚良の反応を見たいです」
彼は小さく頷き、自力で床の上に座り直した柚良に問いかけた。
「俺は羽根谷光輝だけど、先日一緒に『フルール・カナン』に行った事は覚えてる?」
詳細を説明されてはじめて、柚良は「ああ……」と瞠目して頷いた。
「あの時の……。……いや、……でも待ってください。……私、ボーッとしていて……。このところずっと、自分が自分でない感覚があったんです。あの日の事も覚えてはいるんですが、どうしてあんなに攻撃的になったのか分からなくて……。お兄さんには大変失礼な事を言いました。申し訳ございません」
頭を下げた柚良を見て、私は心の底から安堵して涙を流した。
「良かった……!」
光輝さんは私を見て微笑み、柚良に言う。
「今度千秋に会ったら謝ってあげて。君の様子がおかしくなって、一番心配していたのは彼女だから」
「っ、そうだ……、千秋! あの子、まだ見つかってなくて……っ」
その時、緋一さんが溜め息混じりに言った。
「……光輝? ……悪いけど、状況を説明してくれないかな?」
緋一さんも理性を取り戻したようだけれど、酷く混乱している上に体調も悪そうだ。
「キッチンを借りてもいい? お茶を淹れて皆で話さない?」
沙織さんに言われ、彼は「俺がやるよ」と立ちあがろうとしたけれど、彼女に制された。
「本調子じゃないんでしょう? 座って待ってて。あとこれ。干し芋!」
沙織さんが干し芋の入ったビニール袋を手渡すと、緋一さんは一瞬毒気を抜かれた表情をし、クシャッと笑った。
やがて人数分の紅茶が出されたあと、居心地悪そうにしていた柚良はガバッと頭を下げた。
「ごめんなさい! 私、よく分からないけれど、とても迷惑を掛けた気がします」
彼女は今にも泣きそうな顔をしている。
主に被害を受けたのは沙織さんだけど、彼女は事情を知っている上、今の柚良の様子を見て責める気持ちにならなかったようだ。
「柚良ちゃんと呼んでもいい?」
「はい」
彼女は沙織さんに声を掛けられ、恐る恐る顔を上げる。
「これから私と光輝くんは普通ではない話をする。でもそれを信じて、二人とも自分の知っている事を話してほしいの。……元の緋一を取り戻す目的は果たしたけれど、千秋ちゃんの体は見つかっていない。彼女を助けるためにも、皆で力を合わせないとならないの」
私の名前が出て、柚良は不安そうに表情を歪めながらも「はい!」と頷いた。
緋一さんも状況が分かっていないながらも「分かった。協力する」と承諾してくれた。
そのあと、光輝さんと沙織さんは今までどういう経験をしたのか語った。
ついでに、光輝さんは私の兄だと嘘をついた事を柚良に謝った。
二人は凪さんやカクの話を聞いて、にわかに信じられない表情をしていたけれど、自分たちが得体の知れない〝何か〟に支配されていたのは自覚していたからか、神妙な面持ちで聞いていた。
「じゃあ、光輝が俺たちを助けてくれたのか?」
緋一さんに言われ、彼は照れくさそうな表情で首を横に振る。
「俺だけの力じゃありません。凪さんとカクが力を貸してくれ、千秋ちゃんも励ましてくれました。それに沙織さんの協力がなければ、この家にも上がれませんでした」
緋一さんはそう言った光輝さんの背中をトンと叩き、笑いかける。
「でも、ありがとう。神様が力を貸してくれたとしても、実際にお祓いをしたのは光輝だ。自信を持っていいと思う」
続いて柚良もお礼を言う。
「私からもお礼を言います。……本来の自分ではなかったとはいえ、私は千秋に酷い事を言ってしまいました。彼女は心配して忠告してくれていたのに、私は……」
柚良の言葉を聞き、沙織さんがおずおずと尋ねた。
「一つ確認したいんだけど、緋一と柚良ちゃんは好き合っているの?」
それを聞いて二人は顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らす。
最初に答えたのは緋一さんだった。



