自己嫌悪に陥った俺は、機械的に会社に通い、神野さんから罵倒される生活を送った。
緋一さんだけは俺の味方をしてくれた、オアシスのような人だったが、いつからか彼からも嫌な匂いがするようになっていった。
彼は顔立ちが整っているし、一見何でもできる〝持てる者〟だ。
でもそれに驕らず、誠実に人と接し、仕事をする事のできる、芯のある人だ。
だからこそ、緋一さんから腐ったような匂いを感じた時は、自分の鼻がおかしくなったのか疑った。
――そんなはずはない。
けれどいつもつけている香水では隠しきれない悪臭が漂い、彼自身、顔色を悪くさせている。
加えて緋一さんを見ていると体の輪郭がブレるように黒い靄が視え、胸騒ぎがする。
兄貴のように、明らかに黒いモノに憑かれている訳ではないが、良くないものがまとわりつき始めているのは事実だ。
――一体どうして……。
人に悪いモノが憑く時の原因は、様々だ。
たまたま連れて帰ってしまった時や、肝試しなどをしてしまった場合、または誰かに呪いをかけられたとか、無意識の生き霊が憑いた時。
緋一さんは良くも悪くも人の意識を集めやすいから、何かがあってもおかしくない。
そう思いながらも、俺は何もできずにいた。
仮に憑いているモノの正体が分かっても、一般人の俺がお祓いする事はできない。
かといって、彼に『お祓いに行ったほうがいいですよ』なんて言えば、〝ヤベー奴〟扱いされて終わりだ。
悶々として過ごす俺の胸にのし掛かるのは、死んだ兄貴の陰だ。
――緋一さんには、兄貴の二の舞を演じてほしくない。
どうやって解決すべきか悩んでいる時に限って、煩わしい事が重なる。
俺の住んでいる賃貸マンションが外装工事をする事になり、騒音に悩まされるのが嫌で、一時的に実家に戻る事にした。
祖父、父とは微妙な関係のままで、無視する訳じゃないが気まずいままだ。
実家に帰るのがつらい俺は理由をつけて残業し、または寄り道をしてから帰宅していた。
そんなある日――、俺は凪さんの店と縁を結んだのだ。
**
私は光輝さんの話を聞き、呆然とする。
「……本当は凄い人だったって事?」
呟くと、彼は微妙な顔で返事をする。
「何も凄くないよ。神主の息子として生まれたし、霊は視える。でもお祓いはできないし、大切な人を死なせた役立たずだ」
向かいの席に座った沙織さんは、光輝さんを見つめて言った。
「……改めて、ここに集まっている人たちって〝縁〟があるよね。そんな中、光輝くんに凄い力があるなら、君に頼るしかないんじゃないかな、って感じてきた」
「話を聞いてなかったんですか? 俺はただの出来損ないです」
光輝さんが自分を卑下したのを聞いた瞬間、私はカッとして声を荒げた。
「出来損ないは、大学に入れてもらえません!」
私は光輝さんを見つめ、強い口調で言う。
「お兄さんを亡くして責任を感じるのは分かります。〝視え〟てしまったなら、『自分があれを祓えたら……』って思うでしょう。……でも、真実は分からないじゃないですか! お兄さんは、光輝さんの知らない所で嫌な想いをしていたかもしれない。遺書がなくて原因が分からないなら、光輝さんのせいにもなりません!」
光輝さんは私の言葉を聞き、ハッと顔を上げる。
「期待されてるから厳しくされるじゃないですか。お祖父さん、お父さん世代は、期待していても甘やかして優しい言葉を言いにくいと思います。言葉にしていないのに、愛情を感じろなんて無理ゲーですよね。でも、肯定されないから、自分は出来損ないなんだって思い込むのはやめてください」
私は悔しさを滲ませ、言葉を続ける。
「私、光輝さんに会えて良かったです。イケメンでタイプだし、優しくて気取ったところがなくて好感を持てます。誰にだって悩みの一つや二つあるし、〝事情〟があっても構いません。私なんて幽霊ですよ!?」
そこまで言い、私はギュッと彼の手を握った。
「光輝さんは素敵な人です! だから自信を持って! 私はどんな事があってもあなたを応援します。どんなに自分に自信がなくても、出来損ないだと思っても、私はいつでもあなたを推すから!」
私は真っ赤になって言い切り、照れくささを誤魔化すためにドヤ顔をする。
緋一さんだけは俺の味方をしてくれた、オアシスのような人だったが、いつからか彼からも嫌な匂いがするようになっていった。
彼は顔立ちが整っているし、一見何でもできる〝持てる者〟だ。
でもそれに驕らず、誠実に人と接し、仕事をする事のできる、芯のある人だ。
だからこそ、緋一さんから腐ったような匂いを感じた時は、自分の鼻がおかしくなったのか疑った。
――そんなはずはない。
けれどいつもつけている香水では隠しきれない悪臭が漂い、彼自身、顔色を悪くさせている。
加えて緋一さんを見ていると体の輪郭がブレるように黒い靄が視え、胸騒ぎがする。
兄貴のように、明らかに黒いモノに憑かれている訳ではないが、良くないものがまとわりつき始めているのは事実だ。
――一体どうして……。
人に悪いモノが憑く時の原因は、様々だ。
たまたま連れて帰ってしまった時や、肝試しなどをしてしまった場合、または誰かに呪いをかけられたとか、無意識の生き霊が憑いた時。
緋一さんは良くも悪くも人の意識を集めやすいから、何かがあってもおかしくない。
そう思いながらも、俺は何もできずにいた。
仮に憑いているモノの正体が分かっても、一般人の俺がお祓いする事はできない。
かといって、彼に『お祓いに行ったほうがいいですよ』なんて言えば、〝ヤベー奴〟扱いされて終わりだ。
悶々として過ごす俺の胸にのし掛かるのは、死んだ兄貴の陰だ。
――緋一さんには、兄貴の二の舞を演じてほしくない。
どうやって解決すべきか悩んでいる時に限って、煩わしい事が重なる。
俺の住んでいる賃貸マンションが外装工事をする事になり、騒音に悩まされるのが嫌で、一時的に実家に戻る事にした。
祖父、父とは微妙な関係のままで、無視する訳じゃないが気まずいままだ。
実家に帰るのがつらい俺は理由をつけて残業し、または寄り道をしてから帰宅していた。
そんなある日――、俺は凪さんの店と縁を結んだのだ。
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私は光輝さんの話を聞き、呆然とする。
「……本当は凄い人だったって事?」
呟くと、彼は微妙な顔で返事をする。
「何も凄くないよ。神主の息子として生まれたし、霊は視える。でもお祓いはできないし、大切な人を死なせた役立たずだ」
向かいの席に座った沙織さんは、光輝さんを見つめて言った。
「……改めて、ここに集まっている人たちって〝縁〟があるよね。そんな中、光輝くんに凄い力があるなら、君に頼るしかないんじゃないかな、って感じてきた」
「話を聞いてなかったんですか? 俺はただの出来損ないです」
光輝さんが自分を卑下したのを聞いた瞬間、私はカッとして声を荒げた。
「出来損ないは、大学に入れてもらえません!」
私は光輝さんを見つめ、強い口調で言う。
「お兄さんを亡くして責任を感じるのは分かります。〝視え〟てしまったなら、『自分があれを祓えたら……』って思うでしょう。……でも、真実は分からないじゃないですか! お兄さんは、光輝さんの知らない所で嫌な想いをしていたかもしれない。遺書がなくて原因が分からないなら、光輝さんのせいにもなりません!」
光輝さんは私の言葉を聞き、ハッと顔を上げる。
「期待されてるから厳しくされるじゃないですか。お祖父さん、お父さん世代は、期待していても甘やかして優しい言葉を言いにくいと思います。言葉にしていないのに、愛情を感じろなんて無理ゲーですよね。でも、肯定されないから、自分は出来損ないなんだって思い込むのはやめてください」
私は悔しさを滲ませ、言葉を続ける。
「私、光輝さんに会えて良かったです。イケメンでタイプだし、優しくて気取ったところがなくて好感を持てます。誰にだって悩みの一つや二つあるし、〝事情〟があっても構いません。私なんて幽霊ですよ!?」
そこまで言い、私はギュッと彼の手を握った。
「光輝さんは素敵な人です! だから自信を持って! 私はどんな事があってもあなたを応援します。どんなに自分に自信がなくても、出来損ないだと思っても、私はいつでもあなたを推すから!」
私は真っ赤になって言い切り、照れくささを誤魔化すためにドヤ顔をする。



