「こっ、光輝くんっ! 鹿っ、鹿の頭がしゃべった!」
「……そうなんスよ。俺も驚きました。しかも神様なので、彼が俺に降りるんです。その時、どうやら俺は人の体に鹿の頭になってるみたいですよ」
「うええええ……」
沙織さんは見ていて可哀想なほど動揺しながらも、奥にある椅子に腰かけた。
ほどなくして凪さんがガラスのティーポットにハーブティーを入れ、それぞれの前に置く。私たちはお茶のお礼を言ってから、ハーブティーを飲んだ。
「まず、改めて自己紹介してもらっていい?」
凪さんに言われ、私たちは自己紹介する。それでようやく正式な縁が結ばれた気がした。
「……ところで、千秋ちゃんっていま幽霊みたいなものじゃないですか。お茶を飲んでるし、幽霊を見た事のない私にも視えてるし……」
沙織さんのもっともな質問に、凪さんはゆったりと脚を組んで答える。
「光輝から説明を受けたと思うけど、ここは二つの世界が重なった場所なんだ。だから霊体の千秋がお茶を飲む事もできるし、肉体があり、いつもなら幽霊を視られない沙織ちゃんが千秋を認識する事もできる。……まぁ、よく分からなかったら『そういう事もある』って思っといて」
沙織さんは常識を覆す店、人々(?)を前に、呆然としつつもなんとか頷いた。
私は凪さんに言う。
「お店に戻って実感しましたが、ここは守られてますね。生身の時は何とも思わなかったんですが、いま外に出ると色んな匂いに襲われてしんどかったです。すれ違う人の中にも、香水や体臭じゃなくて、匂いのきつい人がいました」
「人って誰しも、気づかないうちに生き霊に憑かれているんだよ」
「私もですか?」
「なくはないね」
尋ねると、凪さんは軽く答える。
「生き霊は対面してる人だけじゃなく、ネットで一方的に恨んでくる人、存在すら知らない人からも、飛ばされる事があるよ」
「うええ……」
私が渋面になると、光輝さんが尋ねた。
「それはそうと、カクを通してこっちの事情は把握していると思いますが、現状、俺たちにできる事はあるでしょうか? カクの力を借りても根本的な対処にはならないんですよね? 緋一さん、柚良ちゃん、神野さんに憑いているものはどうやって祓えばいいですか?」
それを聞いた凪さんは、ジッと彼を見つめた。
「……な、なんでしょう……」
戸惑った光輝さんが尋ねると、彼女はミステリアスな笑みを浮かべ、意味深に言った。
「すべての答えは光輝の中にあるんじゃないかな?」
そう言われ、光輝さんはギクリとしたような表情を浮かべ、視線を落とす。
しばらく沈黙が落ち、私は気まずそうな光輝さんを庇うために質問した。
「どういう事ですか?」
凪さんは微笑んだまま光輝さんを見つめ続けている。
まるで問いただすような、彼が何かを言うのを待っているような目つき、態度に、私は焦れったさを感じた。
「答えが分かってるなら、勿体ぶらないで言ってくださいよ」
すると凪さんは「分かってないな」と言うように首を左右に振った。
「光輝、よく考えてみな。なぜ自分がこの店に来られたのか。なぜ君にその資格があったのか。壱島家の血筋だから? 光輝は〝素質〟があってカクを降ろしているわけだけど、なぜできているのか……。思い出してごらん」
尋問するように言われた光輝さんは、視線を逸らして気まずく黙っている。
二人を見比べてアワアワしていると、凪さんは私を見て意味ありげに言う。
「千秋にも関わりのある事だよ」
「え?」
目を瞬かせていると、沙織さんが尋ねる。
「その〝答え〟が分かったら、すべて解決するんですか?」
「まぁね」
凪さんの答えを聞き、沙織さんは縋るような目で光輝さんを見る。
みんな、この状況を解決したいのは分かるけど、言いたくない事を無理に言わせるのは良くないんじゃ……。
そう思っていた時、光輝さんが溜め息をついて口を開いた。
「……俺は、出来損ないなんです」
「……そうなんスよ。俺も驚きました。しかも神様なので、彼が俺に降りるんです。その時、どうやら俺は人の体に鹿の頭になってるみたいですよ」
「うええええ……」
沙織さんは見ていて可哀想なほど動揺しながらも、奥にある椅子に腰かけた。
ほどなくして凪さんがガラスのティーポットにハーブティーを入れ、それぞれの前に置く。私たちはお茶のお礼を言ってから、ハーブティーを飲んだ。
「まず、改めて自己紹介してもらっていい?」
凪さんに言われ、私たちは自己紹介する。それでようやく正式な縁が結ばれた気がした。
「……ところで、千秋ちゃんっていま幽霊みたいなものじゃないですか。お茶を飲んでるし、幽霊を見た事のない私にも視えてるし……」
沙織さんのもっともな質問に、凪さんはゆったりと脚を組んで答える。
「光輝から説明を受けたと思うけど、ここは二つの世界が重なった場所なんだ。だから霊体の千秋がお茶を飲む事もできるし、肉体があり、いつもなら幽霊を視られない沙織ちゃんが千秋を認識する事もできる。……まぁ、よく分からなかったら『そういう事もある』って思っといて」
沙織さんは常識を覆す店、人々(?)を前に、呆然としつつもなんとか頷いた。
私は凪さんに言う。
「お店に戻って実感しましたが、ここは守られてますね。生身の時は何とも思わなかったんですが、いま外に出ると色んな匂いに襲われてしんどかったです。すれ違う人の中にも、香水や体臭じゃなくて、匂いのきつい人がいました」
「人って誰しも、気づかないうちに生き霊に憑かれているんだよ」
「私もですか?」
「なくはないね」
尋ねると、凪さんは軽く答える。
「生き霊は対面してる人だけじゃなく、ネットで一方的に恨んでくる人、存在すら知らない人からも、飛ばされる事があるよ」
「うええ……」
私が渋面になると、光輝さんが尋ねた。
「それはそうと、カクを通してこっちの事情は把握していると思いますが、現状、俺たちにできる事はあるでしょうか? カクの力を借りても根本的な対処にはならないんですよね? 緋一さん、柚良ちゃん、神野さんに憑いているものはどうやって祓えばいいですか?」
それを聞いた凪さんは、ジッと彼を見つめた。
「……な、なんでしょう……」
戸惑った光輝さんが尋ねると、彼女はミステリアスな笑みを浮かべ、意味深に言った。
「すべての答えは光輝の中にあるんじゃないかな?」
そう言われ、光輝さんはギクリとしたような表情を浮かべ、視線を落とす。
しばらく沈黙が落ち、私は気まずそうな光輝さんを庇うために質問した。
「どういう事ですか?」
凪さんは微笑んだまま光輝さんを見つめ続けている。
まるで問いただすような、彼が何かを言うのを待っているような目つき、態度に、私は焦れったさを感じた。
「答えが分かってるなら、勿体ぶらないで言ってくださいよ」
すると凪さんは「分かってないな」と言うように首を左右に振った。
「光輝、よく考えてみな。なぜ自分がこの店に来られたのか。なぜ君にその資格があったのか。壱島家の血筋だから? 光輝は〝素質〟があってカクを降ろしているわけだけど、なぜできているのか……。思い出してごらん」
尋問するように言われた光輝さんは、視線を逸らして気まずく黙っている。
二人を見比べてアワアワしていると、凪さんは私を見て意味ありげに言う。
「千秋にも関わりのある事だよ」
「え?」
目を瞬かせていると、沙織さんが尋ねる。
「その〝答え〟が分かったら、すべて解決するんですか?」
「まぁね」
凪さんの答えを聞き、沙織さんは縋るような目で光輝さんを見る。
みんな、この状況を解決したいのは分かるけど、言いたくない事を無理に言わせるのは良くないんじゃ……。
そう思っていた時、光輝さんが溜め息をついて口を開いた。
「……俺は、出来損ないなんです」



