「神野さんは三十歳で営業部のやり手です。緋一さんが入社した時は教育係としてついたそうです。それまでは神野さんがエースだったけど、あっという間に緋一さんに抜かされてしまったから、多分……」
「それは……、恨まれそうね」
沙織さんは溜め息混じりに言う。
「さっき柚良から悪臭を感じましたが、神野さんに異変はありましたか?」
私の質問を聞いて、彼はハッと軽く瞠目した。
「……すれ違った時、妙な匂いがするなとは思ってた。……今になって言われてみれば、どことなく顔色が悪かったかもしれない」
言ったあと、光輝さんは深い溜め息をつく。
「……本当に今さらですまない。……言い訳をすれば、いつも自分の仕事で手一杯で、他人を気にする暇なんてなかったんだ。……それに神野さんは、俺を見下して馬鹿にしていた。だから余計に『関わりたくない』と思っていたんだ」
「そう思うのは当然だわ」
沙織さんは同意し、光輝さんに非はないと訴える。
「三人で凪さんのお店に戻ってみませんか?」
「そうだな」
彼は私の提案に頷き、沙織さんに凪さんのお店を説明する。
「勿論、行きたいわ」
私は動じずに頷いた沙織さんを見て「結構大物だな……」と感じ、彼女と出会った事も、運命の一部なのかと思った。
**
新宿三丁目まで戻った私たちは、果たして沙織さんも一緒にお店に入れるか少し悩む。
するとカクが現れ《凪が『入れてあげる』って言ってるから、光輝と手を繋いでその辺のドアをくぐりな》と指示してきた。
その通りにした途端、沙織さんは目の前に広がる美しい店内を見て「えぇっ!?」と声を上げた。
「ど……っ、どういう事? 私、今まったく別の店に入って……、えっ!? すごーい! 素敵なお店!」
沙織さんは感嘆の声を上げたあと、傍らにいる私を見て目を見開いた。
「もしかしてあなたが千秋ちゃん!? 本当にいたの!? 私、視えてる!?」
「あっ、視えてるんですね。どうも」
私はまさか霊感のない彼女に認識されると思わず、ペコリと会釈する。
肉体に戻ってカオを合わせる事があったら挨拶したいと思っていたけれど、まさかこんなにあっさり言葉を交わせるとは思っていなかった。
なので想定外に素っ気ない挨拶をしてしまって、内心反省した。
「ち……っ、千秋ちゃん? 羽根谷千秋ちゃん?」
沙織さんは、わなわなと唇を震わせて興奮し、私の名前を確かめてくる。
「はい、そうです。花南沙織さん、お話は聞かせていただいていました。姿が見えない中、失礼しました」
「いっ、いえ、いいのよ。……あー……、びっくりした……」
彼女が大きな溜め息をついた時、「いらっしゃーい」と凪さんの声がした。
沙織さんは奥から出てきた麗人を見て目を奪われ、言葉を失う。
「私はこの店の店主、宇津美凪。まぁ、とりあえず奥の椅子にでも座って」
凪さんに促され、沙織さんはまだ動揺しつつもぎこちなく頷く。
彼女は色んな商品が置かれている店内を珍しそうに見ながら歩き、カクの鹿頭を見て「もしかして……」と彼を指さす。
「どうも~! カクでーす!」
「っきゃああああぁああぁっ!!」
カクの底なしに明るい声が響いた瞬間、沙織さんは凄まじい悲鳴を上げた。
……そりゃそうなるよね……。
「それは……、恨まれそうね」
沙織さんは溜め息混じりに言う。
「さっき柚良から悪臭を感じましたが、神野さんに異変はありましたか?」
私の質問を聞いて、彼はハッと軽く瞠目した。
「……すれ違った時、妙な匂いがするなとは思ってた。……今になって言われてみれば、どことなく顔色が悪かったかもしれない」
言ったあと、光輝さんは深い溜め息をつく。
「……本当に今さらですまない。……言い訳をすれば、いつも自分の仕事で手一杯で、他人を気にする暇なんてなかったんだ。……それに神野さんは、俺を見下して馬鹿にしていた。だから余計に『関わりたくない』と思っていたんだ」
「そう思うのは当然だわ」
沙織さんは同意し、光輝さんに非はないと訴える。
「三人で凪さんのお店に戻ってみませんか?」
「そうだな」
彼は私の提案に頷き、沙織さんに凪さんのお店を説明する。
「勿論、行きたいわ」
私は動じずに頷いた沙織さんを見て「結構大物だな……」と感じ、彼女と出会った事も、運命の一部なのかと思った。
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新宿三丁目まで戻った私たちは、果たして沙織さんも一緒にお店に入れるか少し悩む。
するとカクが現れ《凪が『入れてあげる』って言ってるから、光輝と手を繋いでその辺のドアをくぐりな》と指示してきた。
その通りにした途端、沙織さんは目の前に広がる美しい店内を見て「えぇっ!?」と声を上げた。
「ど……っ、どういう事? 私、今まったく別の店に入って……、えっ!? すごーい! 素敵なお店!」
沙織さんは感嘆の声を上げたあと、傍らにいる私を見て目を見開いた。
「もしかしてあなたが千秋ちゃん!? 本当にいたの!? 私、視えてる!?」
「あっ、視えてるんですね。どうも」
私はまさか霊感のない彼女に認識されると思わず、ペコリと会釈する。
肉体に戻ってカオを合わせる事があったら挨拶したいと思っていたけれど、まさかこんなにあっさり言葉を交わせるとは思っていなかった。
なので想定外に素っ気ない挨拶をしてしまって、内心反省した。
「ち……っ、千秋ちゃん? 羽根谷千秋ちゃん?」
沙織さんは、わなわなと唇を震わせて興奮し、私の名前を確かめてくる。
「はい、そうです。花南沙織さん、お話は聞かせていただいていました。姿が見えない中、失礼しました」
「いっ、いえ、いいのよ。……あー……、びっくりした……」
彼女が大きな溜め息をついた時、「いらっしゃーい」と凪さんの声がした。
沙織さんは奥から出てきた麗人を見て目を奪われ、言葉を失う。
「私はこの店の店主、宇津美凪。まぁ、とりあえず奥の椅子にでも座って」
凪さんに促され、沙織さんはまだ動揺しつつもぎこちなく頷く。
彼女は色んな商品が置かれている店内を珍しそうに見ながら歩き、カクの鹿頭を見て「もしかして……」と彼を指さす。
「どうも~! カクでーす!」
「っきゃああああぁああぁっ!!」
カクの底なしに明るい声が響いた瞬間、沙織さんは凄まじい悲鳴を上げた。
……そりゃそうなるよね……。



