店の外に出て待っていると、私服に着替えた沙織さんがやって来た。
「近くの店でいい? お昼ご飯食べたいわ」
そのあと二人は世間話をしながら歩き、イタリアンの店に入った。
(わあ……、美味しそう。体に戻ったら絶対来よう)
二人はパスタとピザ、シーザーサラダをシェアするようだった。
光輝さんと沙織さんは二人掛けの席に座り、私は少し迷ったあと、ベンチシートの空いている所に座った。
オーダーしたあと、沙織さんは水を一口飲んでから切りだした。
「……緋一は会社でも相変わらず?」
「そうですね。仕事ができるのは相変わらず……と言いたいですが、誰彼構わず暴言を吐くので、人間関係が悪くなっています。営業成績がトップだったのも、人当たりの良さや気遣いがあっての事でした。でも今は一緒に営業していると、強引に契約を結ぼうとしています。先方もそういう雰囲気を感じるとムッとされ、いやみを言われる事も多くなりました。……失敗した時は、社用車のハンドルを叩いて罵り……」
「本当にどうしちゃったのかしらね。前はそんな人じゃなかったのに」
緋一さんが好きなら他人事じゃないだろう。
「沙織さんに霊だのなんだのを教えるのは、良くないでしょうか? 笑われて終わりか、信じてくれるか……」
[他人の言う事を馬鹿にする人ではないから、言ってみる価値はある。でも信じてくれるかは分からない。……けど、この件については沙織さんも悩んでいるし、緋一さんの変貌を怪しんでるから、聞いてくれる可能性はある]
沙織さんは物憂げな表情で、緋一さんの変化を語る。
「……緋一、連絡をくれなくなったのよね。私から連絡をしても雑に扱われるし、あまりにも人が変わって誰かと思っちゃった」
「本心ではないと思いますよ」
「そうね。……そう信じたい」
光輝さんは話題を切り替えた。
「俺、柚良ちゃんの親友を知ってるんです」
話題が変わり、沙織さんは顔を上げて興味深そうな表情をした。
「千秋ちゃんと言うんですが、彼女が言うには、柚良ちゃんも緋一さんと同じように突然性格が変わったみたいなんです」
「……何それ。……どんな関係が……」
「緋一さんと柚良ちゃんは、なんらかの事情で同時期に性格を変えてしまった。千秋ちゃんは親友を心配し、俺たちは緋一さんの心配をしている感じです」
「何があったのかしら。……私、柚良ちゃんにはあまりいい感情を持てていないけど、巻き込まれただけなら気の毒に思うわ」
その時シーザーサラダが運ばれ、二人はシェアをして食べ始める。
「……突然ですが、俺、前にみんなでキャンプした時、『幽霊が視える』って言ったじゃないですか」
「ああ、うん」
彼女はサラダを咀嚼しながら頷く。
「その関係で心当たりがあるって言ったら、胡散臭いと思いますか? 信じてくれますか?」
沙織さんは一旦フォークを置くと腕組みし、まじまじと彼を見る。
彼女は真偽を問うような目で光輝さんを凝視していたけれど、溜め息をついて言った。
「光輝くんが言うなら信じる。あなたは嘘を言うタイプじゃないし、人を傷つける冗談を言わない。だから緋一も私もあなたを気に入っている。私は霊感がまったくないから、信じるとは言えない。でも光輝くんの事なら信じる」
その答えを聞いた私は、「聡明な人だな」と感じた。
「ありがとうございます。……実は……。柚良ちゃんと話していた時、彼女は〝祓われた〟んです」
光輝さんはとても不安そうな顔で言う。
確かにこんな事を言えば、普通なら〝ヤベー奴〟扱いされて終わりだろう。
沙織さんは真剣な表情で彼の言葉を聞き、何度か小さく頷いた。
「……確かに彼女、最後に変な声を出して体を揺らしてたわね」
「あれ、祓われた直後だったんです」
光輝さんが声を潜めて言うと、沙織さんは興味深そうに彼を見つめる。
「……光輝くんがお祓いしたの? 神主さんの息子だったよね?」
「や、俺の力じゃないんです。……いや、でも器的な問題ではあるけど……」
光輝さんはブツブツ言い、私は思わず口出ししてしまう。
「全部言っちゃったらどうですか? 沙織さん、信頼できそうですし」
彼は私を見て少し困った顔をし、溜め息をつく。
「……俺の言う事、どれぐらい信じてくれますか?」
「逆に尋ねるけど、私が『信じない』って言ったら光輝くんは諦めるの? 私が信じなくても君の中にある真実は変わらないでしょう? 私はさっき光輝くんを信じると言ったし、あとは君が話すか話さないかの問題だと思う。私はどんなに突拍子もない事でも、君が言うなら信じたい」
潔い答えを聞き、光輝さんは腹を決めたみたいだった。
彼は食事をしながら自分が凪さんの店に行った事、二重と呼ばれる世界で霊体の私と出会い、体を探す手伝いをする傍ら、緋一さんや柚良が関わってきた事を打ち明けた。
「……それで、柚良ちゃんに取り憑いていた悪霊を祓ったのは、店の鹿頭に宿っていた〝アメノカク〟という鹿の神様なんです」
すべて話し終える頃には食事が終わり、二人はコーヒーを飲んでいた。
沙織さんはしばらく黙っていたけれど、「……うん」と頷く。
「近くの店でいい? お昼ご飯食べたいわ」
そのあと二人は世間話をしながら歩き、イタリアンの店に入った。
(わあ……、美味しそう。体に戻ったら絶対来よう)
二人はパスタとピザ、シーザーサラダをシェアするようだった。
光輝さんと沙織さんは二人掛けの席に座り、私は少し迷ったあと、ベンチシートの空いている所に座った。
オーダーしたあと、沙織さんは水を一口飲んでから切りだした。
「……緋一は会社でも相変わらず?」
「そうですね。仕事ができるのは相変わらず……と言いたいですが、誰彼構わず暴言を吐くので、人間関係が悪くなっています。営業成績がトップだったのも、人当たりの良さや気遣いがあっての事でした。でも今は一緒に営業していると、強引に契約を結ぼうとしています。先方もそういう雰囲気を感じるとムッとされ、いやみを言われる事も多くなりました。……失敗した時は、社用車のハンドルを叩いて罵り……」
「本当にどうしちゃったのかしらね。前はそんな人じゃなかったのに」
緋一さんが好きなら他人事じゃないだろう。
「沙織さんに霊だのなんだのを教えるのは、良くないでしょうか? 笑われて終わりか、信じてくれるか……」
[他人の言う事を馬鹿にする人ではないから、言ってみる価値はある。でも信じてくれるかは分からない。……けど、この件については沙織さんも悩んでいるし、緋一さんの変貌を怪しんでるから、聞いてくれる可能性はある]
沙織さんは物憂げな表情で、緋一さんの変化を語る。
「……緋一、連絡をくれなくなったのよね。私から連絡をしても雑に扱われるし、あまりにも人が変わって誰かと思っちゃった」
「本心ではないと思いますよ」
「そうね。……そう信じたい」
光輝さんは話題を切り替えた。
「俺、柚良ちゃんの親友を知ってるんです」
話題が変わり、沙織さんは顔を上げて興味深そうな表情をした。
「千秋ちゃんと言うんですが、彼女が言うには、柚良ちゃんも緋一さんと同じように突然性格が変わったみたいなんです」
「……何それ。……どんな関係が……」
「緋一さんと柚良ちゃんは、なんらかの事情で同時期に性格を変えてしまった。千秋ちゃんは親友を心配し、俺たちは緋一さんの心配をしている感じです」
「何があったのかしら。……私、柚良ちゃんにはあまりいい感情を持てていないけど、巻き込まれただけなら気の毒に思うわ」
その時シーザーサラダが運ばれ、二人はシェアをして食べ始める。
「……突然ですが、俺、前にみんなでキャンプした時、『幽霊が視える』って言ったじゃないですか」
「ああ、うん」
彼女はサラダを咀嚼しながら頷く。
「その関係で心当たりがあるって言ったら、胡散臭いと思いますか? 信じてくれますか?」
沙織さんは一旦フォークを置くと腕組みし、まじまじと彼を見る。
彼女は真偽を問うような目で光輝さんを凝視していたけれど、溜め息をついて言った。
「光輝くんが言うなら信じる。あなたは嘘を言うタイプじゃないし、人を傷つける冗談を言わない。だから緋一も私もあなたを気に入っている。私は霊感がまったくないから、信じるとは言えない。でも光輝くんの事なら信じる」
その答えを聞いた私は、「聡明な人だな」と感じた。
「ありがとうございます。……実は……。柚良ちゃんと話していた時、彼女は〝祓われた〟んです」
光輝さんはとても不安そうな顔で言う。
確かにこんな事を言えば、普通なら〝ヤベー奴〟扱いされて終わりだろう。
沙織さんは真剣な表情で彼の言葉を聞き、何度か小さく頷いた。
「……確かに彼女、最後に変な声を出して体を揺らしてたわね」
「あれ、祓われた直後だったんです」
光輝さんが声を潜めて言うと、沙織さんは興味深そうに彼を見つめる。
「……光輝くんがお祓いしたの? 神主さんの息子だったよね?」
「や、俺の力じゃないんです。……いや、でも器的な問題ではあるけど……」
光輝さんはブツブツ言い、私は思わず口出ししてしまう。
「全部言っちゃったらどうですか? 沙織さん、信頼できそうですし」
彼は私を見て少し困った顔をし、溜め息をつく。
「……俺の言う事、どれぐらい信じてくれますか?」
「逆に尋ねるけど、私が『信じない』って言ったら光輝くんは諦めるの? 私が信じなくても君の中にある真実は変わらないでしょう? 私はさっき光輝くんを信じると言ったし、あとは君が話すか話さないかの問題だと思う。私はどんなに突拍子もない事でも、君が言うなら信じたい」
潔い答えを聞き、光輝さんは腹を決めたみたいだった。
彼は食事をしながら自分が凪さんの店に行った事、二重と呼ばれる世界で霊体の私と出会い、体を探す手伝いをする傍ら、緋一さんや柚良が関わってきた事を打ち明けた。
「……それで、柚良ちゃんに取り憑いていた悪霊を祓ったのは、店の鹿頭に宿っていた〝アメノカク〟という鹿の神様なんです」
すべて話し終える頃には食事が終わり、二人はコーヒーを飲んでいた。
沙織さんはしばらく黙っていたけれど、「……うん」と頷く。



