「大丈夫だった? 光輝くん」
「沙織さん」
「知り合い!?」
店員さんは二十代後半の大人っぽい美人で、優しそうな雰囲気の人だ。
私は落ち着きのある女性を前にして、「光輝さんはこういう人が好きなのかな?」と嫉妬してしまう。
同時に、彼が入店した時に奥を気にしていたのは、彼女がいないか確認していたんだと理解した。
「余計なお世話かもしれないけど、大丈夫だった? あの子、緋一と付き合っている子でしょ?」
沙織さんと呼ばれた女性は小さめの声で言ってから「お冷やお注ぎしますね」と、水のお代わりを注ぐ。
……っていうかこの女性、柚良と緋一さんを知ってる!? どういう事!?
私が目をまん丸にして驚いていると、光輝さんは若干説明っぽく言った。
「沙織さんは緋一さんと幼馴染みですから、あの子の事も知ってるんですね」
なるほど、幼馴染みだったのか。
「…………ちょっと聞きたい事があるから、外で話せる?」
沙織さんに小声で言われ、光輝さんは快諾する。
「勿論構いません。夕方でいいですか?」
彼が提案すると、沙織さんは悪戯っぽく笑った。
「私、今日はお昼で終わりなの。自分のお店だし、土曜日は毎週半休にしてるのよ。着替えてくるから外で待っていてくれる?」
「分かりました」
そのあと、沙織さんは会釈をしてテーブルを離れた。
「緋一さんの幼馴染みなんですか?」
彼女の背中を見送って尋ねると、光輝さんはコーヒーを飲んでから頷く。
[彼女は花南沙織さんと言って、緋一さんの幼馴染みだ。大学も同じで、社会人になった今も交流が続いてる。この店は彼女の祖母が花屋をやっていたのを継いでカフェにしたんだ。緋一さんは頻繁に店に来ていて、俺もその付き合いで来ていたんだ]
「柚良が選んだお店なのに、凄い偶然ですね。……あっ、緋一さんの行きつけだから彼女も知ってた?」
[だと思う]
光輝さんは肯定したあと、苦笑いして溜め息をついた。
[……沙織さん、緋一さんの事が好きなんだよ]
「えっ?」
私は嫌な予感を抱き、思わず声を漏らす。
[緋一さんも憎からず思っていて、時が来たら結婚するものと思ってた。……それがいきなり、見せつけるように柚良ちゃんと付き合い始めたから俺も混乱した。緋一さんの性格が変わったのは、その頃からなんだ]
光輝さんは苦悩混じりの表情で続ける。
[緋一さんはエリートなのは勿論、顔も良くて人当たりもいいし、みんなから好かれていた。……勿論、やっかむ人もいたけど、ほとんどの人は緋一さんを慕っている。……中でも俺は緋一さんを尊敬しているし、可愛がられていた自負がある。……でも……]
彼は深い溜め息をつき、お腹の前で手を組む。
[彼の性格が変わった時期から、きつく当たられるようになった。人格者の緋一さんが言うとは思えない言葉をかけられ、……結構……、傷付いたよ]
自嘲めいた表情を見て、私まで胸が痛くなる。
[俺は『理由があるんだ』と自分に言い聞かせていた。……でも今なら確信して言える。さっきの柚良ちゃん同様に、緋一さんにも何かが憑いている]
彼は強い目で前方を見据えたまま、ギュッと手に力を込めた。
[カクが祓ってくれたら……と思ったけど、根本的な解決になってないなら……]
苦悩する光輝さんの姿を見て、「彼の力になりたい」と思った。
私だって体が見つからないし、親友も取り憑かれていて踏んだり蹴ったりだ。
でも光輝さんや、彼が好意を抱いている人まで巻き込まれているのを見て、放っておけない。可能ならみんなでハッピーになりたいものだ。
「緋一さんが正気に戻ったら、柚良は失恋するでしょうね」
[申し訳ないけど、緋一さんの好みは沙織さんみたいな人だ。柚良ちゃんが悪いとは言わないけど、彼女は若すぎるし、取り憑かれた今は性格も歪んでしまっている。どうして憑かれた者同士付き合ったのか分からないけど、不幸な事だ]
確かに緋一さんに執着する柚良は異常だったし、原因を根本から断たなければ。
[……そろそろ出ようか]
私たちは立ちあがり、会計に向かう。
「柚良ったらご馳走してもらったのに、お礼も言わないですみません」
親友が何も言わずに出て行った事を思い出すと、自分の事のように恥ずかしくなる。
[千秋ちゃんはお気楽女子大生に見えて、結構しっかりしてるよね]
「えっ?」
いきなり褒められ、私は彼を見上げる。
[酷い事を言われた時も、理路整然と言い返せて偉いなと思った。大人でもなかなかできないと思うよ]
「……えへへ……」
光輝さんに褒められ、私は照れ笑いする。
[そういう千秋ちゃんだから、俺も協力したいと思ってる。頑張って一緒に体を探そう]
「はい!」
本当は柚良に心ない言葉を言われて悲しかったし、傷付いた。
信じていた親友にあんな事を言われたら、誰だって大きなショックを受ける。
もしも光輝さんがいなくて私一人だったら、もっと違う反応をしたかもしれない。
けど、今は隣に彼がいるから、みっともなく喚く事はやめておこうと思えたのだ。
イケメンに良く思われたいという下心ありきだけど、いい人の光輝さんと一緒にいると、「自分も良くありたい」と願ってしまう。
彼も緋一さんに傷つけられたけど、悲しんでも悪口は言っていない。
だから私も〝本当の柚良〟を信じたいと思った。
「沙織さん」
「知り合い!?」
店員さんは二十代後半の大人っぽい美人で、優しそうな雰囲気の人だ。
私は落ち着きのある女性を前にして、「光輝さんはこういう人が好きなのかな?」と嫉妬してしまう。
同時に、彼が入店した時に奥を気にしていたのは、彼女がいないか確認していたんだと理解した。
「余計なお世話かもしれないけど、大丈夫だった? あの子、緋一と付き合っている子でしょ?」
沙織さんと呼ばれた女性は小さめの声で言ってから「お冷やお注ぎしますね」と、水のお代わりを注ぐ。
……っていうかこの女性、柚良と緋一さんを知ってる!? どういう事!?
私が目をまん丸にして驚いていると、光輝さんは若干説明っぽく言った。
「沙織さんは緋一さんと幼馴染みですから、あの子の事も知ってるんですね」
なるほど、幼馴染みだったのか。
「…………ちょっと聞きたい事があるから、外で話せる?」
沙織さんに小声で言われ、光輝さんは快諾する。
「勿論構いません。夕方でいいですか?」
彼が提案すると、沙織さんは悪戯っぽく笑った。
「私、今日はお昼で終わりなの。自分のお店だし、土曜日は毎週半休にしてるのよ。着替えてくるから外で待っていてくれる?」
「分かりました」
そのあと、沙織さんは会釈をしてテーブルを離れた。
「緋一さんの幼馴染みなんですか?」
彼女の背中を見送って尋ねると、光輝さんはコーヒーを飲んでから頷く。
[彼女は花南沙織さんと言って、緋一さんの幼馴染みだ。大学も同じで、社会人になった今も交流が続いてる。この店は彼女の祖母が花屋をやっていたのを継いでカフェにしたんだ。緋一さんは頻繁に店に来ていて、俺もその付き合いで来ていたんだ]
「柚良が選んだお店なのに、凄い偶然ですね。……あっ、緋一さんの行きつけだから彼女も知ってた?」
[だと思う]
光輝さんは肯定したあと、苦笑いして溜め息をついた。
[……沙織さん、緋一さんの事が好きなんだよ]
「えっ?」
私は嫌な予感を抱き、思わず声を漏らす。
[緋一さんも憎からず思っていて、時が来たら結婚するものと思ってた。……それがいきなり、見せつけるように柚良ちゃんと付き合い始めたから俺も混乱した。緋一さんの性格が変わったのは、その頃からなんだ]
光輝さんは苦悩混じりの表情で続ける。
[緋一さんはエリートなのは勿論、顔も良くて人当たりもいいし、みんなから好かれていた。……勿論、やっかむ人もいたけど、ほとんどの人は緋一さんを慕っている。……中でも俺は緋一さんを尊敬しているし、可愛がられていた自負がある。……でも……]
彼は深い溜め息をつき、お腹の前で手を組む。
[彼の性格が変わった時期から、きつく当たられるようになった。人格者の緋一さんが言うとは思えない言葉をかけられ、……結構……、傷付いたよ]
自嘲めいた表情を見て、私まで胸が痛くなる。
[俺は『理由があるんだ』と自分に言い聞かせていた。……でも今なら確信して言える。さっきの柚良ちゃん同様に、緋一さんにも何かが憑いている]
彼は強い目で前方を見据えたまま、ギュッと手に力を込めた。
[カクが祓ってくれたら……と思ったけど、根本的な解決になってないなら……]
苦悩する光輝さんの姿を見て、「彼の力になりたい」と思った。
私だって体が見つからないし、親友も取り憑かれていて踏んだり蹴ったりだ。
でも光輝さんや、彼が好意を抱いている人まで巻き込まれているのを見て、放っておけない。可能ならみんなでハッピーになりたいものだ。
「緋一さんが正気に戻ったら、柚良は失恋するでしょうね」
[申し訳ないけど、緋一さんの好みは沙織さんみたいな人だ。柚良ちゃんが悪いとは言わないけど、彼女は若すぎるし、取り憑かれた今は性格も歪んでしまっている。どうして憑かれた者同士付き合ったのか分からないけど、不幸な事だ]
確かに緋一さんに執着する柚良は異常だったし、原因を根本から断たなければ。
[……そろそろ出ようか]
私たちは立ちあがり、会計に向かう。
「柚良ったらご馳走してもらったのに、お礼も言わないですみません」
親友が何も言わずに出て行った事を思い出すと、自分の事のように恥ずかしくなる。
[千秋ちゃんはお気楽女子大生に見えて、結構しっかりしてるよね]
「えっ?」
いきなり褒められ、私は彼を見上げる。
[酷い事を言われた時も、理路整然と言い返せて偉いなと思った。大人でもなかなかできないと思うよ]
「……えへへ……」
光輝さんに褒められ、私は照れ笑いする。
[そういう千秋ちゃんだから、俺も協力したいと思ってる。頑張って一緒に体を探そう]
「はい!」
本当は柚良に心ない言葉を言われて悲しかったし、傷付いた。
信じていた親友にあんな事を言われたら、誰だって大きなショックを受ける。
もしも光輝さんがいなくて私一人だったら、もっと違う反応をしたかもしれない。
けど、今は隣に彼がいるから、みっともなく喚く事はやめておこうと思えたのだ。
イケメンに良く思われたいという下心ありきだけど、いい人の光輝さんと一緒にいると、「自分も良くありたい」と願ってしまう。
彼も緋一さんに傷つけられたけど、悲しんでも悪口は言っていない。
だから私も〝本当の柚良〟を信じたいと思った。



