《感情と体臭って結びついてるからね! 恐怖心を抱いたらそういう匂いになるから、相手にもバレるよ!》
いきなり鹿頭が現れ、私はビクッとして一歩後ずさる。
《ほらほら、動揺してるとあいつが調子に乗るから。スッと澄ましてな。怒った時、悲しい時、楽しい時、なんなら色気づいてる時も、人は違う匂いを発するんだ。生身の人間でも、嗅覚が敏感な人は分かるもんなんだよ》
「マジですか……」
私は呆然として呟く。
《今の千秋は霊体だから、感情と共に生者の匂いが広がって彼らを刺激する。死者は自分たちを怖がる者、興味を持つ者を察知する力が強い。だから恐怖心は持たないほうがいいし、気にしてる素振りも見せないほうがいいよ》
カクから真面目なアドバイスを受け、私は頷いた。
「ありがとう。気をつける」
《じゃあ、またねー。バーイ》
カクはそう言ったあと、スッと光輝さんから抜けていった。
「はぁ……」
光輝さんは溜め息をつき、自分の体を確かめるように腕をポンポン叩いている。
「カクが降りた時ってどんな感じになるんですか?」
[グイッと意識が後ろに引っ張られる感じかな。目線は同じだし、触った物の感触も分かる。聴覚も嗅覚も働いているけど、自分の意志では動かせない。そんな感じ]
「なるほど……。不快感とか、自分が自分じゃなくなる感じはありませんか?」
いくら光輝さんが自分の意志で神降ろしに応じたとはいえ、私を手伝うために体調を悪くしたら、申し訳ないじゃ済まない。
[大丈夫だよ。凪さんもカクも、色々と事情はありそうだけどいい人だと思ってる。神降ろしについても、危険な行為を勧めるとは思えないんだ。長期的に見たら危険かもしれなくても、短期間なら問題ない。彼らはそう捉えてると思うよ]
「そうですね。今はあの人達しか頼れませんから」
そこまで話した時、柚良が姿を現した。
柚良はウエーブの掛かったミディアムヘアをクリップでまとめ髪にし、ミントグリーンのモヘアニットに、白いチュールスカートを穿いている。
「お待たせしました。行きましょうか」
柚良は光輝さんに言い、彼から少し離れて駅に向かって歩き始めた。
柚良が向かったカフェ『フルール・カナン』は彼女のお気に入りの店で、花屋も併設している素敵な所だ。
飲み物をオーダーしたあと、光輝さん店の奥を気にする素振りを見せている。
――と、柚良が先に口を開いた。
「失礼ですけど、あなたが本当に千秋のお兄さんだという証拠はありますか?」
もっともな事を言われ、光輝さんは免許証を出す。
事前にそうなる事を考え、凪さんが彼の身分証すべてに〝おまじない〟をかけた。
光輝さんが「羽根谷光輝だ」と強く念じると、その時だけ身分証の名前が変化して見える、ちょっとした魔法みたいなものらしい。
「……ありがとうございます」
柚良は彼が私の兄だと信じたらしく、先ほどより和らいだ表情になって溜め息をついた。それから彼女は水を飲み、知らずとまた息を吐く。
「私も千秋の事を心配しているんです。喧嘩別れをしてしまったとはいえ、親友ですし嫌いになったわけじゃありません。……ちょっとムカつく事を言われたから怒ったけど、まさかあれが最後の会話になるなんて……」
ちょっと待て。最後の会話って縁起が悪いからやめてほしい。
「まだ亡くなったわけじゃないですから、希望を持ちましょう」
「でも行方不明になって一週間ですよ? 千秋のお母さんだってあんなに憔悴して……」
家族が心配してくれていると知り、胸がギュッと痛くなった。
「千秋の失踪について心当たりはないかな? 警察にもうちの両親にも質問されたあとだと思う。重複するのは承知の上で、些細な事でもいいから教えてほしい」
「……そう言われましても……」
柚良は本当に心当たりがないようで、視線を落とす。
……っていうか、さっきから柚良が臭いと思うのは私だけだろうか。
いきなり鹿頭が現れ、私はビクッとして一歩後ずさる。
《ほらほら、動揺してるとあいつが調子に乗るから。スッと澄ましてな。怒った時、悲しい時、楽しい時、なんなら色気づいてる時も、人は違う匂いを発するんだ。生身の人間でも、嗅覚が敏感な人は分かるもんなんだよ》
「マジですか……」
私は呆然として呟く。
《今の千秋は霊体だから、感情と共に生者の匂いが広がって彼らを刺激する。死者は自分たちを怖がる者、興味を持つ者を察知する力が強い。だから恐怖心は持たないほうがいいし、気にしてる素振りも見せないほうがいいよ》
カクから真面目なアドバイスを受け、私は頷いた。
「ありがとう。気をつける」
《じゃあ、またねー。バーイ》
カクはそう言ったあと、スッと光輝さんから抜けていった。
「はぁ……」
光輝さんは溜め息をつき、自分の体を確かめるように腕をポンポン叩いている。
「カクが降りた時ってどんな感じになるんですか?」
[グイッと意識が後ろに引っ張られる感じかな。目線は同じだし、触った物の感触も分かる。聴覚も嗅覚も働いているけど、自分の意志では動かせない。そんな感じ]
「なるほど……。不快感とか、自分が自分じゃなくなる感じはありませんか?」
いくら光輝さんが自分の意志で神降ろしに応じたとはいえ、私を手伝うために体調を悪くしたら、申し訳ないじゃ済まない。
[大丈夫だよ。凪さんもカクも、色々と事情はありそうだけどいい人だと思ってる。神降ろしについても、危険な行為を勧めるとは思えないんだ。長期的に見たら危険かもしれなくても、短期間なら問題ない。彼らはそう捉えてると思うよ]
「そうですね。今はあの人達しか頼れませんから」
そこまで話した時、柚良が姿を現した。
柚良はウエーブの掛かったミディアムヘアをクリップでまとめ髪にし、ミントグリーンのモヘアニットに、白いチュールスカートを穿いている。
「お待たせしました。行きましょうか」
柚良は光輝さんに言い、彼から少し離れて駅に向かって歩き始めた。
柚良が向かったカフェ『フルール・カナン』は彼女のお気に入りの店で、花屋も併設している素敵な所だ。
飲み物をオーダーしたあと、光輝さん店の奥を気にする素振りを見せている。
――と、柚良が先に口を開いた。
「失礼ですけど、あなたが本当に千秋のお兄さんだという証拠はありますか?」
もっともな事を言われ、光輝さんは免許証を出す。
事前にそうなる事を考え、凪さんが彼の身分証すべてに〝おまじない〟をかけた。
光輝さんが「羽根谷光輝だ」と強く念じると、その時だけ身分証の名前が変化して見える、ちょっとした魔法みたいなものらしい。
「……ありがとうございます」
柚良は彼が私の兄だと信じたらしく、先ほどより和らいだ表情になって溜め息をついた。それから彼女は水を飲み、知らずとまた息を吐く。
「私も千秋の事を心配しているんです。喧嘩別れをしてしまったとはいえ、親友ですし嫌いになったわけじゃありません。……ちょっとムカつく事を言われたから怒ったけど、まさかあれが最後の会話になるなんて……」
ちょっと待て。最後の会話って縁起が悪いからやめてほしい。
「まだ亡くなったわけじゃないですから、希望を持ちましょう」
「でも行方不明になって一週間ですよ? 千秋のお母さんだってあんなに憔悴して……」
家族が心配してくれていると知り、胸がギュッと痛くなった。
「千秋の失踪について心当たりはないかな? 警察にもうちの両親にも質問されたあとだと思う。重複するのは承知の上で、些細な事でもいいから教えてほしい」
「……そう言われましても……」
柚良は本当に心当たりがないようで、視線を落とす。
……っていうか、さっきから柚良が臭いと思うのは私だけだろうか。



