外に出ると、いきなりガヤガヤとした喧噪に包まれ、私は面食らう。
周囲を見回すと飲食店やパチンコ屋、占いの店などがあり、本当にごく普通の街並みが続いている。
「……えっと、この辺は新宿のどこですか?」
「三丁目辺りかな」
私は昨晩逃げ惑っていた時の心許なさを思い出し、溜め息をつく。
迷い人は……と思って周囲を見ると、パッと見た限りはいない。
「光輝さん〝視え〟ますか? 私からは迷い人は認識できないんですが」
彼はグルリと周囲を見回して「害のありそうなのはいないと思う」と小声で言った。
現世の人から見れば、私と会話している光輝さんは独り言を言っているように見えるんだろう。それはあまりにも可哀想だ。
(何とかして、意思疎通を図る方法はないかな……。そうだ、スマホのメッセージに打ち込んでもらったら……)
光輝さんに提案しようとした時、私は彼を見て「ぎゃあっ!」と悲鳴を上げた。
「し……っ、鹿……っ!」
《ん?》
なんと、光輝さんの頭部には鹿の頭があったのだ。鹿人間だ。
神降ろしってこういう事か! 雑すぎる!
「カ……っ、カク!?」
あまりにも驚いて震える声で尋ねると、カクは《ピーンポーン》と明るく言う。
《あっ、僕の声は周りの人に聞こえてないから安心してね。凪からの伝言。『普通に話してたら光輝が不審者になる。千秋に話しかけたい時は、ペンダントを握って心の中で話すといいよ』だって》
カクは明るい調子で言ったあと、スッと鹿頭を消した。
そのあと爽やかイケメンが現れ、私は胸に手を当てて安堵する。
「いきなり鹿人間は心臓に悪かった……」
光輝さんは私に向かって何か言おうとし、慌ててペンダントを握って話しかけてくる。
[千秋ちゃんには俺が鹿人間に見えたの?]
頭の中に直接響いてくるような声を聞き、私は目を見開く。
「パーティーグッズに馬の頭のかぶり物があるじゃないですか。ああいう感じですね」
[マジか]
光輝さんは真顔で突っ込む。
「……まぁ、あの人たちが雑なのは今に始まった事じゃないですし、仕方ないので〝そういう神降ろし〟という事にしましょう」
[千秋ちゃんって順応能力が高いよね]
光輝さんはそう言って笑ったあと、駅に向かって歩き始めた。
「私、本当はあの店にいるのは夢で、一晩経ったら自分の家で目が覚めるものと思っていました。……でも現実なんですね」
[俺もまだ戸惑ってるよ。でも普通の人と比べれば、幽霊が見られる俺は〝変わってる人〟なんだろう。今まで家族以外に仲間はいなかったから、俺はこの感覚を共有できる人と出会えて少し嬉しいかな]
光輝さんは私に歩調を合わせて歩きながら話す。
[俺の祖父さんからは『神職になる素質がある』と言われたけど、『幽霊を見る以外に能のない自分に何ができるんだろう』と思ってた。千秋ちゃんの今の状況は大変だと思うけど、こんな俺でも人の役に立てると思うと、勇気が出たんだ]
彼の言葉を聞き、私は意外さを感じていた。
パッと見光輝さんは明るいスポーツマンという印象で、勝手に〝強者〟の部類だと思っていた。少しお人好しな面はあるけれど、善人で皆に好かれていて、劣等感なんてなさそうな人と思っていたのだ。
でも光輝さんは「こんな俺でも役に立てる」と自分を卑下した事を言い、困っている私を助ける事で「勇気が出た」と言っている。
彼が抱える事情は知らないけれど、なんとなく彼は自分の才能をあまり発揮できない環境にいるのかな、と感じた。
(でも、一時的なコンビになったとはいえ、初対面同然だから突っ込んだ事は聞けない)
新宿駅に入った私たちは、山手線で渋谷駅に向かう事にする。
混雑している駅で人とぶつかりそう――、と思った瞬間、私は相手の体をスカッとすり抜けていた。
(こりゃ完全に幽霊だ)
私は意を決して光輝さんのあとにくっつき、改札を通り抜けた。
電車に揺られている間、私は光輝さんとお喋りを続けていた。
「光輝さんと緋一さんは、どういう間柄ですか? 会社の先輩と後輩なのは分かりましたが、仲がいいとか……」
尋ねると、彼は少し微妙な顔になった。
[難しい質問だな。……緋一さんはイケメンで仕事ができて、皆から憧れられていた人なんだ。……でも最近は少し様子がおかしい。それまでは面倒見のいい兄貴分という感じだったけど、急に不機嫌になって人を怒鳴るとか、理不尽な言動をとるようになった。……慕っていたのに、きつい事を言われて結構ショックだったな]
「えっ?」
私は光輝さんの言葉を聞き、声を上げる。
「光輝さんの言ってた〝慕ってる人〟って緋一さんなんですか?」
[そうだよ。優秀な先輩で、とても良くしてくれたから恩を感じているんだ]
(良かったー!)
私はその言葉を聞いてグッと拳を握り、少し饒舌に話す。
「……私、こうなる前に何があったのか覚えていませんが、柚良が緋一さんと付き合って異様なまでに夢中になっていたのは覚えています。……でも、私は二人の交際に否定的でした。だって、出会ったその日に付き合うって変じゃないです? 柚良はもっと慎重な子なんです。だから『やめたほうがいいよ』って言ったんですが、喧嘩してしまって……」
柚良を思うと胸がザワザワして、いてもたってもいられなくなる。
「とにかく、二人に会ってみないと分かりませんね」
[そうだな]
電車の中にも迷い人はいたけど、お守りが効いているのか近づいてこなかった。
**
周囲を見回すと飲食店やパチンコ屋、占いの店などがあり、本当にごく普通の街並みが続いている。
「……えっと、この辺は新宿のどこですか?」
「三丁目辺りかな」
私は昨晩逃げ惑っていた時の心許なさを思い出し、溜め息をつく。
迷い人は……と思って周囲を見ると、パッと見た限りはいない。
「光輝さん〝視え〟ますか? 私からは迷い人は認識できないんですが」
彼はグルリと周囲を見回して「害のありそうなのはいないと思う」と小声で言った。
現世の人から見れば、私と会話している光輝さんは独り言を言っているように見えるんだろう。それはあまりにも可哀想だ。
(何とかして、意思疎通を図る方法はないかな……。そうだ、スマホのメッセージに打ち込んでもらったら……)
光輝さんに提案しようとした時、私は彼を見て「ぎゃあっ!」と悲鳴を上げた。
「し……っ、鹿……っ!」
《ん?》
なんと、光輝さんの頭部には鹿の頭があったのだ。鹿人間だ。
神降ろしってこういう事か! 雑すぎる!
「カ……っ、カク!?」
あまりにも驚いて震える声で尋ねると、カクは《ピーンポーン》と明るく言う。
《あっ、僕の声は周りの人に聞こえてないから安心してね。凪からの伝言。『普通に話してたら光輝が不審者になる。千秋に話しかけたい時は、ペンダントを握って心の中で話すといいよ』だって》
カクは明るい調子で言ったあと、スッと鹿頭を消した。
そのあと爽やかイケメンが現れ、私は胸に手を当てて安堵する。
「いきなり鹿人間は心臓に悪かった……」
光輝さんは私に向かって何か言おうとし、慌ててペンダントを握って話しかけてくる。
[千秋ちゃんには俺が鹿人間に見えたの?]
頭の中に直接響いてくるような声を聞き、私は目を見開く。
「パーティーグッズに馬の頭のかぶり物があるじゃないですか。ああいう感じですね」
[マジか]
光輝さんは真顔で突っ込む。
「……まぁ、あの人たちが雑なのは今に始まった事じゃないですし、仕方ないので〝そういう神降ろし〟という事にしましょう」
[千秋ちゃんって順応能力が高いよね]
光輝さんはそう言って笑ったあと、駅に向かって歩き始めた。
「私、本当はあの店にいるのは夢で、一晩経ったら自分の家で目が覚めるものと思っていました。……でも現実なんですね」
[俺もまだ戸惑ってるよ。でも普通の人と比べれば、幽霊が見られる俺は〝変わってる人〟なんだろう。今まで家族以外に仲間はいなかったから、俺はこの感覚を共有できる人と出会えて少し嬉しいかな]
光輝さんは私に歩調を合わせて歩きながら話す。
[俺の祖父さんからは『神職になる素質がある』と言われたけど、『幽霊を見る以外に能のない自分に何ができるんだろう』と思ってた。千秋ちゃんの今の状況は大変だと思うけど、こんな俺でも人の役に立てると思うと、勇気が出たんだ]
彼の言葉を聞き、私は意外さを感じていた。
パッと見光輝さんは明るいスポーツマンという印象で、勝手に〝強者〟の部類だと思っていた。少しお人好しな面はあるけれど、善人で皆に好かれていて、劣等感なんてなさそうな人と思っていたのだ。
でも光輝さんは「こんな俺でも役に立てる」と自分を卑下した事を言い、困っている私を助ける事で「勇気が出た」と言っている。
彼が抱える事情は知らないけれど、なんとなく彼は自分の才能をあまり発揮できない環境にいるのかな、と感じた。
(でも、一時的なコンビになったとはいえ、初対面同然だから突っ込んだ事は聞けない)
新宿駅に入った私たちは、山手線で渋谷駅に向かう事にする。
混雑している駅で人とぶつかりそう――、と思った瞬間、私は相手の体をスカッとすり抜けていた。
(こりゃ完全に幽霊だ)
私は意を決して光輝さんのあとにくっつき、改札を通り抜けた。
電車に揺られている間、私は光輝さんとお喋りを続けていた。
「光輝さんと緋一さんは、どういう間柄ですか? 会社の先輩と後輩なのは分かりましたが、仲がいいとか……」
尋ねると、彼は少し微妙な顔になった。
[難しい質問だな。……緋一さんはイケメンで仕事ができて、皆から憧れられていた人なんだ。……でも最近は少し様子がおかしい。それまでは面倒見のいい兄貴分という感じだったけど、急に不機嫌になって人を怒鳴るとか、理不尽な言動をとるようになった。……慕っていたのに、きつい事を言われて結構ショックだったな]
「えっ?」
私は光輝さんの言葉を聞き、声を上げる。
「光輝さんの言ってた〝慕ってる人〟って緋一さんなんですか?」
[そうだよ。優秀な先輩で、とても良くしてくれたから恩を感じているんだ]
(良かったー!)
私はその言葉を聞いてグッと拳を握り、少し饒舌に話す。
「……私、こうなる前に何があったのか覚えていませんが、柚良が緋一さんと付き合って異様なまでに夢中になっていたのは覚えています。……でも、私は二人の交際に否定的でした。だって、出会ったその日に付き合うって変じゃないです? 柚良はもっと慎重な子なんです。だから『やめたほうがいいよ』って言ったんですが、喧嘩してしまって……」
柚良を思うと胸がザワザワして、いてもたってもいられなくなる。
「とにかく、二人に会ってみないと分かりませんね」
[そうだな]
電車の中にも迷い人はいたけど、お守りが効いているのか近づいてこなかった。
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