「なんでその首だけ鹿?」
私が突っ込むと、カクは「ペッ」と唾を吐く真似をする。本当に態度が悪い。
「ずっとここにいて性格がねじ曲がったけど、カクは古事記に出てくる〝アメノカク〟という鹿の神の化身なんだ」
「ええ……?」
まったく神様らしからぬカクを見て、私は不信な顔をする。
「なんで首を切られてるんですか?」
光輝さんがもっともな質問をする。
「あれは形だけだよ。ハンティングトロフィーとして飾られていた鹿の首に、私がカクを降ろしただけだ。憑代さえあればカクはどこにでも行ける。だから、カクが光輝に宿って、私の言葉を伝える事も可能なんだ」
「なるほど……」
とりあえず納得した私は、ボーッとカクを見る。
「僕がいい男だからって、見とれるなよ……」
「間違えても鹿には見とれないわ」
自惚れ鹿のボケとも言えない言葉に、私は突っ込みを入れる。
「……俺でいいなら神降ろしをしても構いませんが、どうやれば? 俺はしがないサラリーマンで、神職には就いてません。神社で手伝っているのは掃除ぐらいです」
「じゃあ、ちょっと〝繋いで〟おこうか」
凪さんは立ちあがり、光輝さんに「おいで」と手招きしてカクのもとへ行く。
光輝さんがカクの前に立つと、凪さんは彼の手をとってカクの鼻面に触らせた。
「はい、終わり」
「え?」
てっきり神主さんのように祝詞でも唱えるのかと思いきや、あっさり「終わり」と言うので困惑するしかない。
「凪、この子凄いね。霊力が通るトンネルが物凄く広い」
カクが感心したように言い、彼女は「マジか」と頷く。
「……これで俺は〝アメノカク〟を降ろせるようになったと?」
光輝さんはまだ不安そうな表情だ。私もそれには同意しかなく、ただカクに触っただけで神様を降ろせるようになったとは思わない。
それに答えたのはカクだ。
「神が人間の願いを叶えるのは、まぁ一言で言えば気まぐれでもあるんだけど、伝えるのが神職なら、正式な使いだしちゃんと聞いてあげようかってなる。僕の場合は凪の紹介でもあるし、光輝は人間にしては珍しく僕らと相性のいい子だから、力を貸してあげてもいいって思ったからだよ。普通の人間なら神を下ろしたら弊害で影響を受けちゃうけど、光輝はそれに耐えられる力を持ってる。だからますます興味を持ったというのもあるね」
「まぁ、論より証拠っていう事で、さっそく外に出てみなよ」
凪さんに言われ、私はこわごわと出入り口のドアを見る。
「怖い気持ちは分かるけど、あまりのんびりしていられないのは分かるよね?」
「はい」
お膳立ては十分にしてもらったし、光輝さんが付き添ってくれる。
自分の問題なのに、全部他人に任せて助けてもらおうなんて思ったら駄目だ。
私は左手首のブレスレットを握り、「行きましょう」と光輝さんに言う。
「よし、とことん付き合うよ」
彼が微笑んだ時、凪さんは机から小瓶を二つ手に取った。
「これはブーストのお守りだと思って。千秋はジャスミンとローズウッド、プチグレン。精神を安定させてくれる香りだ。……光輝はライムにネロリ、プチグレン。作用は似た感じだけど、君は実際に現世の人と話して接しなければならないから、この香りでリフレッシュして自分をしっかり保って」
「はい」
私たちは小瓶を受け取り、凪さんに言われたように数滴手首に落とす。
するとフワッといい香りがし、気持ちが幾分シャッキリしたように思えた。
「じゃあ、肉体に戻れるまでお世話になります」
私はもう一度手首の匂いをスンッと嗅いでから、光輝さんに「行きましょう!」と笑いかけて歩き始めた。
**
私が突っ込むと、カクは「ペッ」と唾を吐く真似をする。本当に態度が悪い。
「ずっとここにいて性格がねじ曲がったけど、カクは古事記に出てくる〝アメノカク〟という鹿の神の化身なんだ」
「ええ……?」
まったく神様らしからぬカクを見て、私は不信な顔をする。
「なんで首を切られてるんですか?」
光輝さんがもっともな質問をする。
「あれは形だけだよ。ハンティングトロフィーとして飾られていた鹿の首に、私がカクを降ろしただけだ。憑代さえあればカクはどこにでも行ける。だから、カクが光輝に宿って、私の言葉を伝える事も可能なんだ」
「なるほど……」
とりあえず納得した私は、ボーッとカクを見る。
「僕がいい男だからって、見とれるなよ……」
「間違えても鹿には見とれないわ」
自惚れ鹿のボケとも言えない言葉に、私は突っ込みを入れる。
「……俺でいいなら神降ろしをしても構いませんが、どうやれば? 俺はしがないサラリーマンで、神職には就いてません。神社で手伝っているのは掃除ぐらいです」
「じゃあ、ちょっと〝繋いで〟おこうか」
凪さんは立ちあがり、光輝さんに「おいで」と手招きしてカクのもとへ行く。
光輝さんがカクの前に立つと、凪さんは彼の手をとってカクの鼻面に触らせた。
「はい、終わり」
「え?」
てっきり神主さんのように祝詞でも唱えるのかと思いきや、あっさり「終わり」と言うので困惑するしかない。
「凪、この子凄いね。霊力が通るトンネルが物凄く広い」
カクが感心したように言い、彼女は「マジか」と頷く。
「……これで俺は〝アメノカク〟を降ろせるようになったと?」
光輝さんはまだ不安そうな表情だ。私もそれには同意しかなく、ただカクに触っただけで神様を降ろせるようになったとは思わない。
それに答えたのはカクだ。
「神が人間の願いを叶えるのは、まぁ一言で言えば気まぐれでもあるんだけど、伝えるのが神職なら、正式な使いだしちゃんと聞いてあげようかってなる。僕の場合は凪の紹介でもあるし、光輝は人間にしては珍しく僕らと相性のいい子だから、力を貸してあげてもいいって思ったからだよ。普通の人間なら神を下ろしたら弊害で影響を受けちゃうけど、光輝はそれに耐えられる力を持ってる。だからますます興味を持ったというのもあるね」
「まぁ、論より証拠っていう事で、さっそく外に出てみなよ」
凪さんに言われ、私はこわごわと出入り口のドアを見る。
「怖い気持ちは分かるけど、あまりのんびりしていられないのは分かるよね?」
「はい」
お膳立ては十分にしてもらったし、光輝さんが付き添ってくれる。
自分の問題なのに、全部他人に任せて助けてもらおうなんて思ったら駄目だ。
私は左手首のブレスレットを握り、「行きましょう」と光輝さんに言う。
「よし、とことん付き合うよ」
彼が微笑んだ時、凪さんは机から小瓶を二つ手に取った。
「これはブーストのお守りだと思って。千秋はジャスミンとローズウッド、プチグレン。精神を安定させてくれる香りだ。……光輝はライムにネロリ、プチグレン。作用は似た感じだけど、君は実際に現世の人と話して接しなければならないから、この香りでリフレッシュして自分をしっかり保って」
「はい」
私たちは小瓶を受け取り、凪さんに言われたように数滴手首に落とす。
するとフワッといい香りがし、気持ちが幾分シャッキリしたように思えた。
「じゃあ、肉体に戻れるまでお世話になります」
私はもう一度手首の匂いをスンッと嗅いでから、光輝さんに「行きましょう!」と笑いかけて歩き始めた。
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