幽香の庵

「見てれば分かるよねぇ。ニヤニヤしてさ。好きなら応援するよ。私はいっさい関知しないけど、頑張りな」

「は……、はい」

 彼女は「初々しいねぇ~」と笑ったあと、脚を組んで聞いてきた。

「それはそうと、柚良ちゃんの住まいは覚えてる?」

「はい」

「なら、まず柚良ちゃんの所に行って、光輝を通して千秋について何か知らないか、聞いてもらって。そのあと、緋一くんとも話したほうがいい」

「……万が一、危険な目に遭ったら?」

「私は外に出ないけど、指示を出す事はできる」

「本当ですか? どうやって?」

「ま、あとから光輝が来たら話すよ」

 それで話は終わり、十時まで私たちはたわいのない話をしてテレビを見た。





 十時前、店の椅子で光輝さんが来るのを待っていると、カクが大きな声で告げた。

「お客様のご来店~!」

 昨晩と同じくいきなりの報告だけれど、「そろそろだな」と身構えていたので驚かずに済んだ。するとカクは「ちっ、驚かないのか」と舌打ちをする。

「あんた、本当に性格悪いね」

「店から動けないから、娯楽に飢えてるんだよ」

 私とカクが睨み合っていると、「あー、入れた!」と光輝さんが入店してきた。

「おはようございます!」

 私がニコッと満面の笑顔で彼を迎えるのを見て、カクはまた舌打ちをしする。

 光輝さんは黒いハイネックニットの上にジージャンを羽織り、黒いテーパードパンツにスニーカーという姿だ。スーツ姿も格好いいけど、イケメンは何を着ても格好いい。

 挨拶が終わったあと、私たちは応接セットで打ち合わせをする。

「千秋から聞いたけど、柚良ちゃんの家は表参道にある。二人で向かって、まず彼女に話を聞いてみてほしい。道案内は千秋に任せて、光輝は怪しまれない話の流れを考えて」

「そうは言われても……、下手すると不審者ですからね」

 光輝さんが困った顔で腕組みすると、凪さんは提案する。

「千秋にはお兄さんがいるらしいし、兄のふりをしたら? 『妹が家に帰っていないから話を聞きたい』って言ったら、大体の人は応じてくれると思うよ」

「……やってみますか」

 光輝さんが頷くと、彼女は「行動あるのみ」と激励する。

「迷い人? は、お守りで遠ざけられるんですか?」

 彼が自分のペンダントを握って尋ねると、凪さんは頷く。

「お守りから半径三メートルは守られていると言っていい。でも、一般的な迷い人に限りだ。時々、物凄い悪霊とエンカウントする事もあるけど、〝視える〟なら、そういうのと鉢合わせないように千秋を誘導して」

「分かりました」

 光輝さんは凪さんの言っているモノに心当たりがあるのか、少し固い表情で頷く。

「凪さんが遠隔で指示を出すと言っていたのは?」

 私が尋ねると、彼女はニカッと笑って光輝さんを指さした。

「彼、さすが神社の跡取り息子なだけあって、神降ろしに適した体質をしてるんだ」

「え?」

 光輝さんは思ってもみない事を言われ、戸惑っている。

「そこで登場するのが……、じゃじゃーん、カクです!」

「どうも~!」

 凪さんに紹介され、カクが明るく話に割り込んでくる。